第24話 迸発する憤懣

 駅神の眼前に、ポトリと椿の花が落ちてきた。焦点の合わない目で自らの依代となっている花を見つめる。椿の花は一瞬の内に萎れ、枯れていった。


 ――ああ……そろそろ死を迎えるのだな。


 自然とそう感じた。

 再び、ポトリと椿の花。


 ――残っている依代は、あと何輪だろうか。


 それが分かれば覚悟くらい出来るのに。そう考える体に激しい痛みが走った。その痛みに顔を歪めながら、荒く息を吐きだす。


 ――沢山の良い息子を持てたな。


 結局、娘は持てなかったが。と苦笑する。

 百二年の中で共に語らい、駅を守り、美味しいお菓子を食べて楽しんだ息子達……。遥か昔に巣立って行った息子達も含めて、全ての顔と思い出がありありと思い出された。


 正月に「羽子板をしましょう!」と誘ってきた子がいた。助役に見つかって大目玉を食らっていた。茶室で一緒に将棋を打った子がいた。彼はとても強く、負けたくなくて真剣に戦った。チョコレートという新しいお菓子を教えてくれた子がいた。彼が最後の息子になった。


 ――これが走馬灯か。


 初めての経験に口元を緩めた時、遠くで薄いガラスの割れるような音が聞こえた。これは結界が割れる音だ! と、誰からか教わった訳でもなく、目覚めたときから内にあった駅神としての知識が主張する。

 その音が、連続しながら急速に近づいて来た。


 ――ああ、長いようで短い命……後悔ばかりが浮かんでしまうな。


 音が大きくなる。背後から、自身の終わりが急速に近づいて来ている。


 ――つい、この間まで……まだ駅神としての命が続くと思っていたのに。


 椿の花が連続して三輪、駅神の死を急かすようにして降ってきた。


 ――何故……どうして私はこんな死に方をしなければならないんだ……?


 椿の花が萎れて消滅する。駅神は、自信の内部から急激に激しい怒りの感情が吹き出すのを感じた。抑えきれない怒りが爆発するかのように解き放たれる。


 ――何故だ! 何故私が死ななければならないのだ! 私は愛されていたのに! 納得など出来な――


 視界が暗転し、全ての感覚が消失した。

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