第53話、天然水サイダーな大迷惑と、儚きに過ぎる根源
その後は、妙な緊張感があるにはあったけれど。
おおむね順調に儀式は進んだ。
問題なく鐘が鳴るから、他の組もうまくいっていたのだろうし、オレの下手くそな歌も捨てたもんじゃなかったんだろう。
そのうち緊急事態は解かれたのか、交互に歌い続けるようになって。
今は……半ばを過ぎた頃。
もっとも眠りの頂点であろう時間帯。
すっかりお互い口数は減っていたけど、ここで寝てしまってはまずいだろう。
そんなわけでオレは思い立つ。
かねてから聞きたかったことを、聞くことにする。
「そういえばさ、聞きたいことがひとつあるんだ」
「……何です?」
サミィもそう思っていたらしい。
視線は向けてくれなかったけど、すぐに相槌が返ってくる。
「カリウス・カムラルは病にかかっていた。前にそう言ったよね? それってなんだったのかなって。普通に健康そうに見えたけど」
というか思っていたけど。
サミィはオレも気付いてないと、そう言っていた。
その時ははぐらかされたけど、今なら聞ける気がして。
「あえて言い表すのなら……それは激しい思い込みの病です。幸い私はかかりませんでしたが、カムラルの使命負うものには、よくあることだそうです」
「それって……」
「なりたい理想、こうでありたいという気持ちが強すぎて、理想と現実を勘違いしてしまうんです」
「いまいちよく分かんないんだけど」
曖昧な言葉。
首を傾げる。
すると、サミィは微笑み浮かべて。
「カリスは、その理想を叶えました。だからその、病はもう病でないのでしょうけど……」
それは、それはつまり。
「死を望む……病?」
「かもしれませんね。カリスはずっと自分から逃げ出したかった。自分の使命から遠ざかりたかった。その苦しみをずっと知っていたから。悲しいですけど……今では少し思うのです。これでよかったのかもしれない、と」
それは、一つの可能性だ。
カリスを殺したその意味。
もし、その相手がその事を知っていたとするなら。
ノヴァキが、その事を知っていたとするなら。
「……なんて迷惑なやつなんだ」
「同感です」
やるせない苦笑とともに、オレは理解する。
やっぱり一番悪いのはオレじゃないか……って。
※ ※ ※
そうして、十二回目の鐘とともに最後の曲を歌い終えて。
オレたちは滞りなく、すべての儀式を終えた。
後は、中央の舞台に現れる時の根源リヴァを待つだけ。
……おそらくは、一番危険かもしれない、その瞬間。
「……今更ですけど、本当にいらっしゃるんですかね、時の神は」
「た、たぶん」
オレはサミィとともに闇しかない中空を見上げながらその瞬間を待つ。
それはとてつもなく長いようにも、ほんの一瞬のようにも感じたけれど。
「ん……?」
最初は瞬くような白い光。
それがだんだんと、どんどん大きくなって……。
「来ました!」
膨れ上がる光。
久しぶりの光に目が眩む。
照らされたその場所には、確かに輿とも言えるものがあって。
そこにいたのは、光の鳥だった。
おそらく、光の燐粉をまく翼だけでも、オレの身長の二倍はある。
優雅に神秘的に羽ばたきながら、甲高い声をあげている。
「……あれがリヴァ、なんですか?」
「だと思うけど……」
ここからあそこにはどうやって行けばいいのか、これからおもてなしをするために話は通じるのか。
そんな疑問はいくつもわいてきて……。
だが、しかし。
その疑問が解消される前に……事は起こった。
「……え?」
「こ、この音色はっ!」
ふいに聞こえてきたのは、懐かしくも美しい『トランペット』の音。
青ざめてお互いの顔を見る。
だってそれは、ノヴァキの……あの一番感動した、だけど恐ろしい音色だったからだ。
「ちょっとごめん!」
「あ、うん……」
慌てて近付いてきたサミィが仮面を取る。そして安堵。
気持ちは分かる。
だってそれは、ノヴァキにしかなせないはずのもの、そう思っていたからだ。
なら一体誰が?
オレが、そう思った時。
ドッゴォオオンッ!
「……っ!」
遠くから爆発音とともに、かすかな悲鳴。
「ま、マイカの声だっ!」
尋常じゃない何かが起きた。
オレは声上げ走り出そうとして……。
ギィヤォオオオオオオォォーン……。
再びの爆発。
放たれる青い閃光。
優雅に待っていた光の鳥は、その一撃の元に打ち落とされて。
光の粉となって闇へと散ってゆく。
滅びれば世界が終わる。
そう謳われた根源が……あまりにもあっけなく。
(第54話につづく)
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