第50話、長きに渡る一対一の密室状態、組み合わせは予想外で
陽が橙の色を増し、一瞬の紫を見せ始める頃。
辿り着いた中央棟……校長室には、祭の儀式、その代表者の七人とその連れ、アルを初めとする先生たちが既に揃い踏みしていた。
スクールもここ数日ですっかり様変わりし、祭の装いをしている。
「おぅおぅ、さすが町の人気者、最後のご登場たぁいい度胸じゃねえか」
言葉通り最後になってしまったオレに、初めに声をかけてきたのは、残念ながら祭の代表者には選ばれなかったルレインだ。
得体の知れないオレが選ばれたのが気に入らないらしく、ちょっとガラが悪い。
「でもわたし、よるかけさんがここの生徒さんだったなんて知らなかったよ~。その仮面すっごく目立つのにね」
たぶん、キキョウは素で言ってるんだろう。
「ふふ、キキョウさんたら。きっとよるかけさんは普段もっと目立たないものをお召しになってるのではないでしょうか」
そりゃ普段は仮面なんかしてるわけない。
そう思うのが常識かと思いきや、キキョウと同じ考えなひとがもう一人いたらしい。
そう言って上品に微笑むルコナは、ルレインをさしおいて、キキョウの補佐役を勝ち取っている。
その最大の勝因は、『ルコナならいいか』っていうルッキーのお墨付きではあるが。
当のルッキーは祭の儀式に参加しない代わりに忙しそうに飛び回っていた。
今は何やらアルと難しい顔で話し込んでいる。
「……遅い、私の補佐役なのだから、家を出る時から待っていて当然だと思うのですが」
そんな二人を見やりながらつくべき場所……サミィの元へとやってくると。
開口一番ぶつけられたのは、高貴な感じが随分と板についてきてる、そんな言葉だった。
「いや、だって。ラネアさんとケイラさん、怖いんだもん……」
見逃してはくれたけど、ばっちり目をつけられていたらしい。
カリウスのときにはまず向けられることのなかった鬼のような目に、震え上がったものだ。
「ふふっ、練習の時も思ってたけど、随分印象違うよね、きみって」
リシアにも言われたことだけど、マイカにまでそんな事言われる始末。
世間一般の『夜を駆けるもの』って一体どんな感じだったのだろうかと、ちょっと気になったりはする。
儀式の代表者たちとは、この格好での顔合わせは既に済ませていた。
神を呼び出す儀式、一晩歌い続けるその祝詞。
間違えずに覚えるためには、練習が必要だからと言われたからだ。
「そのなよなよをやめろと言ってるんだ。お前は仮にもサミィに選ばれしものなんだぞ」
「そ、そういう言い方はやめてください」
そんな事言われたって直りようもない。
練習の時にも口うるさかったルートにそう言い返そうとしたけど。
先に言い返してくれたのはサミィだった。
おお、ありがとうとサミィのほうを見やると。
「勘違いしないでください。私は仕方なくあなたを補佐に決めたということを主張したかっただけです」
「……」
そんなはっきり言わなくても分かってたことを口にされる。
うん、そうだと思ってたよ?
「……はは。でも、選ばれるだけの力があったってことでしょう。初めて観た長い祝詞を、あれだけ苦もなく覚えられたんですから」
「うっ」
そこに、からかうようなタインの言葉。
痛いところをつかれて、オレは言葉に詰まる。
初めも何も、カリウスの時にとっくに覚えてました、とは言えるはずもなく。
その事を失念して得意げになってた自分を恥じるばかりである。
「そうだね。そこのギリギリまで覚えられなかった図体がでかいだけなのとは大違いだよ」
「……ふん」
そこに、ちょっとトゲのあるマイカの言葉。
鼻をならし、ルートの後ろにいるキミテが、マイカから顔を背ける。
そう、オレが『夜を駆けるもの』としてサミィにつくにあたって、一番びっくりしたのはそこだった。
サミィに聞くところによると、マイカとキミテが大喧嘩をしたらしい。
オレはてっきりマイカは自分の補佐役にするためにキミテを連れてきたのかと思ったけど……結局マイカはタインと、キミテはルートにつくことになった。
ルートにしても、タインと組むのは嫌だったそうで、ちょうど良かったとか。
かといって、新たな組み合わせが馴染んでいるわけでもなく。
お互いに会話はない。
マイカはタインに対しつっけんどんだし、ルートは腕っ節がある割に大きなキミテを怖がっているような節がある。
だからなのか、その腕にはずっと白猫さん……ヨースを抱いていた。
今は、周りのがやなどお構いなしにルートの腕の中で眠りこけている。
聞いたら、特例で一緒に連れてくのを許してもらったそうだ。
オレの仮面が許されるのだから、だそうだが。
何だか取られちゃったみたで、ちょっと寂しい。
「な、なんだ。この子はやらんぞっ」
そんな事を考えてみていたら、心読まれたみたいにそんな事言われる。
仮面かぶっていて表情は分からないはずなんだけど、これも可愛いもの好きな力の賜物だろうか?
「それではみなさん揃ったところで! 時の根源リヴァ様を迎える儀式を始めるよ! 『代表者』の人たちは所定の位置についてください!」
そんな事を考えていると、朗々と響くアルの声。
ばたん、とひとりでに開かれる校長席の真裏の空かずの扉。
練習通りの前夜祭儀式開始の宣言。
この後の段取りは、もう頭に叩き込んである。
「ルコナ、頑張れ!」
「キキョウ、寝たりするんじゃねぇぞ!」
「……っ」
「そんな事しないよぉ」
応援組のルレインとルッキーに励まされて、おそらく一番問題ないんだろう組み合わせのキキョウとルコナが、一番に下へ下へ続く階段へと消えてゆく。
「ゆ、ゆくぞっ」
「……ああ」
その次にお互い妙に緊張しているルートとキミテが。
「マイカ、行きますっ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいって……」
一人で降りようとするマイカを、タインが慌てて追いかける。
そうして、残されたのはオレたち二人。
「行きますよ」
「う、うん」
差し出される手。
違和感などまるでなく無意識のままにオレはサミィの手を取る。
口の端に笑みを浮かべていたアルに頷かれて。
オレはそれに答えるようにして頭を下げ、闇の中へと降りゆくのだった……。
(第51話につづく)
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