第49話、嵐の前の、きっとここが分水嶺の分岐点




そうして、運命の日。

建国祭前夜。

時の根源『リヴァ』を迎える儀式の日。


「いよいよ『夜を駆けるもの』、表舞台に登場!ってやつ?」


リシア特製の声の変わるマジックアイテムつきの七色のお面。

それらしく新調したマントにハット。

ばっちり決めて、いざゆかんと。

夕暮れに染まる空の下ノヴァキ家を出ると、そこにはリシアがいた。



「いやぁ、さすがにノヴァキの家から出てこられると妙な違和感があるわね。ワタシゃ未だに別人説捨ててないんだけどさ」


バレてるのだろうかと案の定リシアに聞いてみたところ、そりゃそうでしょと言葉を返されたわけだが。

ノヴァキと『夜を駆けるもの』が二人でいたことで、今と昔で『夜を駆けるもの』の中身が違うんじゃないかって、リシアは疑っていた。


「さぁ、どうだろう?」

「またそうやってはぐらかす」


その考えが、正しいけど間違っている。

オレはリシアの言葉の通り、はぐらかすことしかできなかった。

リシアを悲しませないように、オレはノヴァキでなければならなかったから。



「にしても凄いわよねぇ。まさかあんたが祭の代表者に選ばれるなんて。しかもどう考えても無理そうなカムラルんとこのお姫様でしょ? 一体どうやって落としたのよ? お姉さんに教えてみなさい、ん?」


山のふもとまで見送ってくれるって言うから頷いたら、返ってきたのはその言葉で。



「落としたって。その言い方はなんだけど。正直言うと、オレも驚いてる。『夜を駆けるもの』で頑張ったのがよかったのか……」

「まあ、それも少しはあると思うけど、やっぱりルフローズの日のことが大きかったんじゃないの? あんな泣き虫じゃ、悪さするようには見えないってさ」

「うぅ、オレが気にしてることを……」


痛いところをつかれて、唸るオレ。

そう言うリシアの目がとてつもなく柔らかく優しげなのが余計になんか癪で。



「いや~、なんかこうやって送り出してるとさ、遠くに行っちゃうみたいだよね」

「大げさだな、別に遠くになんか行かないよ。ずっと側にいる。リシアがいるから、オレは今ここにいるんだから」


ふいの言葉に、もう二度とそんなことはないって誓うようにオレは呟く。



「同じ台詞をワカホにもしてなきゃ、満点だったんだけどね……」


すると、ジト目でそんな呟きが返ってきた。

同じだと駄目なのかな? なんてちょっと思ったけど。



「普通ないわよ。落ちるとこまで落ちてたはずなのに、あんなに気に入られるなんて。玉の輿に乗れるんじゃない?」


すぐさま、話題を変えるみたいにリシアはそんな事を聞いてくる。


「こし? 乗っちゃ駄目でしょ。それは時の根源が乗るやつだし」

「……こいつは手ごわいぜ」


またもぶつぶつ、ふどくうんざりした様子。


「リシア……?」

「なんでもないわよ。さっさと行って無実を証明して、とっとと幸せになっちゃいなさい! お天道様の下、堂々と歩けるように!」


問いかければ心響く言葉。

オレはそれに一つ頷く。


「そうだね、そうなったら祭の出店見て回ろ。ワカホたちも一緒にさ」


そして、山の入り口で立ち止まるリシアに、手を上げてオレはスクールへと向かったから。



「……一言余計なのよ、バカ」


最後に呟いたリシアの言葉は、オレに届くことはなかったのだった……。



             (第50話につづく)






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