第41話、疑うんじゃなくて、信じてもらえるように生きるという選択肢
光陰矢のごとし。
それからは……特別クラス編入までの月日は。
長いようであっという間に過ぎ去った。
それはきっと、一人じゃなかったからなんだと思う。
時が経てば経つほど周りの風当たりは強くなる。
何故だらだらと生かされているのか。
死ねばいいのに。
心冷える迫害を、いくつも受けてきた。
一人ぼっちであったのならば、ノヴァキとして生きるっていう強い信念がなければ、とっくにオレはその周りの波に流されていたと思う。
でも、一緒に立ち向かってくれる人がいたからオレは頑張れた。
どんなつらい仕打ちも、真っ向から。
むしろ楽しんでやるってくらいの心意気でいることができたんだ。
それは、奇跡とも呼べる幸運だったのかもしれない。
オレと、リシアとワカホと、三人そろって特別クラスに編入できることになったことでさえ、そのほんの一部……些細なことだと思えるくらいには。
まぁ、リシアに言われれば勉強のためにじっとじてるなんて、何度逃げ出そうと思ったか分からない、だそうだけど。
「……何とか最初の難関は突破したみたいだね」
「はい。今はちょっとほっとしてます」
そんなこんなで今は。
すっかり固い口調のなくなったアルに、一人で呼び出されていた。
「ま、これからが本番なんだけどね」
真実を知るための新たな一歩を探るために。
「手掛りは見つかった? あなたが犯人ではないと証明できるような」
返す答えが分かりきっているだろう、アルの言葉。
オレは視線落とし、首を振る。
編入試験の勉強の合間、オレは必死に手掛りを探し求めた。
それは、『夜を駆けるもの』としての仕事の合間の聞き込みが主だったけれど。
明確な成果は得られなかった。
本当は特別クラスのみんなに聞いて回るのが一番なんだろうけど、オレにはそれができなかったのだ。
やはりどこかで辛いかもしれない真実なんて、知りたくないって気持ちはあったのかもしれない。
「このままいつまでも伸ばせるものじゃないよ。忘れ去ったように見えたって、この国にはまだ悲しみが残ってる。その制裁と清算を望んでいるものも多い。最近は私まで疑われるようになった。あなたを庇ってるんじゃないか……って」
それは確かにそうだろう。
いつまでもこのままでいいはずがなかった。
「本腰入れろって事ですよね。明日からは特別クラスなんだから」
今まで怖くて避けていた所に足を踏み入れなければならないと思うと、相当の覚悟が必要だった。
だけどこのままじゃアルに迷惑がかかるのも確かだ。
辛いから目を背けているわけにはいかないだろう。
「そんな生ぬるいものじゃないわ。実はね、期限が設けられたの。来月行われる建国祭、それが終わるまでが限界よ」
庇うのも限界。
状況的にも精神的にも。
つまりはそう言うことなのだろう。
今まで手掛りすら掴めなかったのだから理解できる。
ただ勉強にかまけてオレ自身が疑われていることの自覚が薄れていたのは確かなんだろう。
引き締めなくちゃいけない、そう思う。
「で、ここからが本題って言うか、提案なんだけど……あなた、祭の代表者を目指しなさい」
「祭の……代表者?」
かつては当たり前として決められていたもの。
いまいちアルの意図が理解できず、オレは首を傾げる。
「祭の代表は編入試験のようにはいかないわよ。実力だけじゃない。周りの、この国に暮らす人々の信頼と期待が要求される。とくに二人だけで組むその相手に対しては特にね」
「それは……」
「信じてくれる人を増やすのよ。あなたが犯人でないと。そうすればおのずと真実は暴かれ、晒されてゆく。因果応報ってやつね」
「疑うわけじゃなく、信じてもらう、か……」
目からウロコが落ちる思いだった。
お前がやったんだろって疑うから辛いのだ。
でもそうじゃない。
オレは違うって、信じてもらうような行動をする。
それで真実が分かるのならば心情的には気が楽だろう。
罪が暴かれ晒されるようりは、罪が自ら告白してくるほうが。
「でも、難しそうだな……」
「当たり前よ。簡単ですむなら、あなたを罰してそれで終わってる」
ため息交じりの皮肉。
やっぱり無理してるんだろう。
そうならないために、義理もないはずなのに奮闘してくれてるのがよく分かる。
報いなければならないと思った。
アルの決断は……オレを信じてくれたことが間違いじゃなかったって、そう思われるように。
難しい、なんて甘ったれたこと言ってられない。
ノヴァキとして生きると決めた以上、それはそう、当たり前のことなのだから。
「……そうだね。やるよオレ。オレは犯人じゃないって証明してみせる」
拳握り意気込むオレ。
そんなオレを。
アルは柔らかに見守る表情で頷き見つめてくれていて……。
(第42話につづく)
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