第31話、白じゃない旗が、気づかぬままに乱立していって
うまく変われたところまではよかったものの。
鏡で見てるとどう見ても別人が入り込んでるってバレバレで。
どうしたものかと思っていると。
恐らく大丈夫だろう、なんてノヴァキのセリフ。
よくよく聞けば、俺には友人なんかいないからとのことだけど。
「……リシアは? 分かるんじゃない?」
「はは、それこそまさかだ。あいつはちゃんと分かってる。俺の近くにいれば特なことなんて何もないってさ。だから仕事上だけの関係なんだ」
オレの顔だと分かり易い。
それがノヴァキの本意じゃないことに。
ノヴァキが、リシアを突き放すようにしているその意味。
何だかオレには、それがリシアのためのような気がしてならなくて。
「そうかなぁ? リシアならすぐに気付くんじゃない?」
「いや、ないな」
仮面の下のオレのことも薄々気付いているようだったから。
そう思い再度推してみると、きっぱりの否定が返ってくる。
それが何だか悔しかった。
リシアがノヴァキに対する感情とはきっと真逆であることを考えたら、余計に。
「んじゃ賭けようよ。もし気付いたら、意地でも特別クラスに入ってもらうからね」
実は、一般クラスでも試験の成績が上がれば、特別クラスへ編入することが許される。
そのためにはビリの成績なら死ぬほど勉強しなきゃ駄目だろう。
これは、ノヴァキが今ほどひどい目に合わぬようにと考えた手の一つでもあった。
そんなものは無理だって言って却下されたけど、そうすればスクールにいる時はずっとそばにいることができて一石二鳥、なんて思っていて。
だからオレは、ここぞとばかりにそんな事を口にする。
「それは別に構わないが、オレが賭けに勝ったらどうするんだ?」
楽しそうなノヴァキの笑顔。
絶対に自信ありって顔だ。
それになんだかむっとなって。
「それは任せる。何でもいいよ。ノヴァキの好きにしてくれ」
「っ、あんた、それは……」
オレも自信たっぷりにそう言ってやる。
それでぐうの音も出なくなったのかすっかり言葉を失うノヴァキがそこにいて。
「よし! んじゃさっそくリシアに会いに行こう!」
「ま、待てって。そんな暇ないだろう? この試験で一番取るって言ったのはあんたじゃないか」
意気軒昂に駆け出すオレに、ノヴァキははっと我に返り、そう言ってくる。
そう、オレは試験前に確かにそう言った。
それは、さっきも話題に上がっていたノヴァキを特別クラスに引っ張ってこようって案の第一歩でもある。
ノヴァキは無理だって言っていたけど。
嫌だって言ってるわけじゃなかったから、編入のための下地を作ろう、そういう魂胆なのだ。
これ以降の試験はどうなるか分からないけど、せっかくそんなノヴァキに手助けできる今をムダにしたくなかった。
ここでいい成績を残しておけば、来春の編入試験に少なからず有利になるはずだから、どうせなら一番になろうって、そう言っておいたのだ。
「だからこそだよ、ノヴァキ。リシアは古代文字の解読ができるんだ。オレたちが一番になるには、合流して損はないと思うよ」
「……何だ、結構そつがないんだな」
呆れたような、感心したようなノヴァキの呟き。
他の組と協力しちゃいけない決まりなんてないし、どっちにしろオレはそのつもりではいた。
マイカやサミィたちとも合流できれば尚いい。
みんなと一緒に行動すればいい成績は残せるだろうし、今のところ成功しているとは言えない、ノヴァキが特別クラスで過ごしやすい環境を作るための親睦が深められるんじゃないかって、そう思ったのだ。
……しかし。
「みんなと協力、か。そんな事で本当に一番にが取れるのか?」
「……うっ」
実は危惧していた痛いところをうまくついてくるノヴァキ。
思わず言葉を失うオレだったけど。
それは逆にちょっとうれしいことでもあった。
何故ならばノヴァキが意外と一番を取ることに真剣になってくれてたって言うか。ほとんどオレの我が侭なのに、それに乗り気でいてくれてることが分かったからだ。
「そもそも、この試験で一番を取るのには何が必要だろう?」
「う~ん」
そう言われ、オレも真剣になってうんうんと考えてみた。
ここはスクール内ともうほとんど変わらないように見える、未開とは真逆な、言わば箱庭だ。
そこで生徒たちが何を得て何をなすのか。
成績をつける先生たちもある程度は予想しているだろう。
それならば。
「すごい発見をする、とか? ここに足を踏み入れてる先生やルートたちすら気付かなったような」
「ああ、オレもそう考える。だから……」
オレの導き出した答えは、いい線いっていたらしい。
頷いたノヴァキは、荷物袋から試験用の地図を取り出し、広げて見せて。
「この地図に載ってない何かを探してみるのはどうだろう? 博打要素は高いが、うまくいけば高評価を得られるかもしれない。他の組と一緒に行動するよりもな」
枠外の何も書かれていない白い部分を指し示し、そんな事を言った。
自信がないのか、言いながらもノヴァキ自身、とても悩んでいる感じで。
「なるほど。いいね。面白いかもしれない」
例えば、秘密の隠し通路とか、世にも珍しい魔精霊とか、あるいは宝物を見つけることができたのなら……確かに他の組と一緒に行動するよりは、単独で一番を狙える可能性はある。
分け前も減らなくてすむし。
とにかく、いいこと盛りだくさんだ。
勢い込んでノヴァキの案に賛成するオレ。
それなのに。
当の案を口にしたノヴァキ本人が、残念そうな……いや、悲しそうな顔をしているではないか。
びっくりした。
何だかそれが否定して欲しかったように見えてしまって。
「あ、あの、オレ何かまずかったかな?」
ノヴァキを傷つけるようなことを口にしてしまったような気がして。
それが一体なんなのか、まったくもって見当がつかなくて、混乱する。
まるで幼子のように、その悲しみがオレに伝播する。
どうしてオレはいつもいつも……。
その先の言葉は続かなかった。
情けない表情をしているだろうオレに、ノヴァキは気付いたのだろう。
大層驚いたような顔をした後、ふわっと笑顔を見せてくれたからだ。
やっぱりオレにはできないだろう、そんな笑顔を。
「何も悪くないさ、あんたは……カリスは何も悪くない。ただ、何も見つからなかったら一番どころの騒ぎじゃないなってそう思っただけさ。それに……」
「……っ!」
カリス。オレの愛称。
ノヴァキが今、初めてオレの名前を呼んでくれた。
今までずっと、あんただったのに。
もしかしたら、ノヴァキにとって見れば身体はノヴァキのものだけど中身が違うわけだし、ややこしいからそう口にしただけなのかもしれないけれど。
でも、それでも。
「平気平気! 見つかるって! オレ、そういう運とか、結構いい方だし」
すごく、すごく嬉しかったから。
気付けばオレも笑顔でそんな事を言っていた。
思いっきり浮かれてたっていってもいいかもしれない。
「……そうか。それじゃ、行ってみよう」
だからオレは。
その言葉に続くものを封じてしまったことも。
頷くノヴァキが、何か強い意志を秘めていたことにも。
気付くことができるはずもなくて……。
(第32話につづく)
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