第15話、もしかしたら全てが夢で浮かれてて、逆に不安になる
ルレインやルコナは。
なんとなくそうなる、お祭りの代表と補佐役をそれぞれこなすことを予見していたらしい。
二人はここにいる意味に得心いったとばかりに頷いていたけれど。
そう言えば、まだお伺いすら立てていなかったサミィや、まだまだ新入生もいいとこのキミテが大層驚いた顔をしていた。
「あれ、まずかった? できればサミィと組もうかなって思ってたんだけど」
「聞いてません。……というか、二年や三年の先輩方に、私より適任の方がいらっしゃると思いますが」
「う~む」
なんといっても火(カムラル)の代表者だし、長時間一緒にいるのならサミィといるのが気楽でいいんだけどなって思ってたわけだが。
なかなかうまくはいかないらしい。
断られることはないだろうなんて思ってた自分がどこかにいて、妙にへこむ。
「あんたはまさか断るなんて言わないわよね? そのためにスクールに入ってもらったようなもんなんだから」
「ああ……。好きにしてくれ」
一方、めんどくさそうではあるものの、キミテの方には異論はないらしい。
というより、もしキミテがいなかったらこの補佐役決めで一番苦労したのはマイカだったんだろうなとは思わずにはいられないオレである。
今この場だけを見ると、子供っぽくてとっつきやすい、オレなんかと比べるべくもない社交性の富んだ人物に見えるマイカだけど。
類は友を呼ぶというか、誇り高き人型の魔精霊だからなのか、実は人付き合いが下手な偏屈者だ。
見た目通りの子供だっていってもいいのかもしれない。
好き嫌いと、敵味方がはっきりしている。
人の事はまったくもって言えないんだけど。
マイカが今いる面子とアル以外で、まともに会話しているところなんて見たことなかった。
寄れば避けられ逃げられるオレと違って、嫌いなもの、興味ないものに対しては、視界にすら入ってないような態度を取るのだ。
そんなマイカがどこで見つけてきたのか分からないキミテ。
そんなキミテにちょっと口は悪いとはいえ、本音で付き合っている風のマイカ。
それだけで、彼がマイカにとってすでに捨て置けぬ存在であることは一目瞭然だろう。
そんなことを想像して、羨ましさも手伝って。
自然と顔がにやけてしまうオレである。
「な、なによっ。沈んだかと思ったらものすっごくうれしそーな顔して」
「いや? なんでも。確かに急に言われたって困るよな。ルッキー……っていうか、キキョウはどうするつもりだったんだ?」
「こいつはカリスとタメ張れるくらい危なっかしいからな。オレ様がついててやりたいのはやまやまなんだが、祭までにいくつか試験あるだろ? 来週のなんかおあつらえ向きに二人一組のやつだし、こいつの好きにさせようかなって思ってる。一晩中二人っきりで一緒にいるんだ。合わねえやつとかキライなやつとかと組むようなことになるのもなんだろ?」
「誰がいいかなぁ? まだ決めてないけど」
やっぱり、組みたい人と組むのが一番だろう。
それはオレも同意見だ。
ルッキーは、そう言ってキキョウの頭の上に陣取り、偉そうな態度で胡坐をかいてその小さな手でぺちぺちとキキョウの頭を叩いている。
キキョウはそれに気を悪くした風もなく、かえって嬉しそうにそんな事を言っていて。
「あ……」
そんなルッキーの言葉に、思うところがあったんだろう。
言葉を失い、俯くサミィ。
何だかそれが、ひどく落ち込んでいるように見えて。
声をかけようとしたオレだったけれど、それより先にルートが口を開いた。
「ふむ。言われてみれば、こやつと組むのも何だか気が引けるな。なにされるか分からんし。他のものに目を向けてみるのもいいかもしれん」
「うわ、ひどっ。ルート様ってば俺のことそんな風に見てたんですか? ……まぁ、別にいいですけどね。そしたら俺はカリスと組みますから。妹さんは嫌がってるみたいだしちょうどいい。あ、ついでに来週の試験も、一緒にどうですか? まだ答えももらってないですしね?」
つれないルートの言葉に、よよよとへこんで見せた後、いやに挑戦的な笑顔でオレでなくサミィを見据え、そんなことを言うタイン。
すると、今さっきまで俯いていていたサミィがばっと顔を上げ、
「冗談も休み休み言いなさい! あなたに任せるくたいならカリスの補佐役は私がやります! それに残念でしたっ。来週の試験、カリスの相手はもう決まってるんですから」
舌まで出して、勝ち誇ったような笑みで、そんな事を言うサミィ。
タインの性格がそうさせるのか、やっぱりタインの前では人見知り性分が薄れるらしい。
そのあまりの変わりように、さすがのタインも驚いたような顔をしていたけれど。
やがて苦笑を浮かべ、オレの方に向き直る。
「なんだ、俺が聞いたときには随分そっけなかったのに。……誰? 誰と組むんです、来週の試験」
「え、えっと……」
ちょっと強引な、有無を言わせぬ問いかけ。
約束してたわけじゃないけど、オレと組みたい意志のあったタインのことをないがしろにしているみたいで、気が引けてすぐには何も言えないオレである。
というより、オレの中では確定事項でも、ノヴァキと交わした手のその約束は、実感というものがあまりなかったからだ。
突然だったし、どこか夢の中のような感触が残っている。
今日の夜なり、明日スクールへ行って、もう一度確認したほうがいいんじゃないかなって、そんな気持ちになっていて。
「その、ノヴァキってやつなんだけど。まだ正式に登録したわけじゃないし、もしかしたらオレの勘違いかもしれないし……もう一度ちゃんと話し合ってって感じなんだけど」
ほとんど無意識に、その今を考えていたことが口から出る。
「ふむ。知らぬ名だな。まったく。マイカにしろカリスにしろ、つれないというかなんというか……」
深いため息をついたルートの言葉は、半ばで途切れる。
なんて言いたかったのかはとても気になったけど、たぶんきっと嬉し楽しいことじゃないんだろう。
聞かなかったことにして周りを見ると、その名前に心当たりがあるものはいないようだった。
まぁ、それはそうだろう。
もう十年近くスクールに通ってるのに、オレ自身がノヴァキのことを知ったのが、先日の、しかもいてはいけない場所と時間帯だったのだから。
「……そうですか、なら仕方ないですね。それじゃあキキョウさん、俺と組みませんか?」
「え? うーん。どうしよっかな~」
「バカヤロ、こっちだっててめえなんか願い下げだっての!」
「みんなしてつれない。泣くよ? 泣きますよ?」
やっぱりわざとらしい振りで、泣き崩れているタイン。
彼がこうやってこういう場を盛り上げるのは毎日のことだったけれど。
それよりも気になったのは、オレと組むことに対して頑なにも見えたのに、妙にあっさり引き下がったなあ、なんてことだった。
たぶんそこに、寂しさみたいなものを感じていたからなんだろうけど。
「それじゃあまずは来週の試験だね。そのノヴァキって人のことも気になるし?」
何かをたくらんでいるかのような、底意地の悪いマイカの笑みにより、そんな思考はかき消される。
「はは、お手柔らかにね……」
オレはそんなマイカに、引きつった笑みで言葉を返すことしかできなかった。
何故ならば、改めて気がつかされたからだ。
オレ自身としてはとっくの間に友達みたいに思い込んでいるところがあったけれど。ノヴァキにとってはそうじゃないってことを。
約束したことで舞い上がってたんだろう。
冷静に考えてみれば、あの少ない時間での邂逅で、同じ気持ちになってくれているだろうことなどまずありえない気がして。
だから。
オレはその、貼り付けたようなわざとらしい笑顔の裏で。
早くもそんなマイカの言葉に対してどうしようって、うまくノヴァキと口裏を合わせとかなきゃって。
自分勝手な思考を彷徨わせていたのだった……。
(第16話につづく)
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