第14話、長い長いお祭りのパートナー、考えたら何故だかすぐに浮かんできて



ルレインもタインも意外と似た者同士なのか。

それぞれの主に睨まれて。

すごすごと口を噤む様が何だか似通ってて。

オレが思わず苦笑していると、言葉足りないルッキーをマイカが補足する。




「……もう、はしょりすぎだよ、ルッキーってば。でもね、確かに彼らはただの観光のためにこの地にやってくるわけじゃないんだ。循環してるんだよ。このユーライジアの世界と、彼らの棲む世界とで。ユーライジアの世界が、根源そのもので作られてるって伝説、みんなも習ったでしょ? あれって、魔精霊側から言わせてもらえば、あながち外れてないんだよね」


一同を見渡し、何だか先生みたいな口調で続ける様は。

ちぐはぐだけど可愛くもあって。



「こっちの世界に六人。あっちの世界に六人。十年に一度、一人ずつ時間が進むみたいに動いて入れ替わることで、それぞれの力が偏らないようにしてるんだよ。世界はけっこう危うい均衡で保たれてるってわけ。滞っても駄目、誰か一人欠けても駄目。ほころびはいつしか広がり、二つの世界はごっちゃになって……やがて世界は破滅する」


だんだんと真に迫ったマイカの言葉。

とてもじゃないけど、冗談でしょ、なんて言える雰囲気じゃなかった。


むしろ、生徒会の役員の集まりとはいえ、一介の生徒たちだけえ話合ってていいレベルじゃないような気がしてならない。


まぁ、いずれはここにいるほとんどの人間が国を背負って立つべき人間になっていくだろうことは間違いないだろうから、先を見据える意味ではありなのかもしれないけれど。


「あれ? それじゃあもしかして、来年のお祭りのお客さんって、もう誰か決まってるんじゃない?」


さっきとは少し違う感じで重くなったその場に、やんわりと確かな一言を投じるキキョウ。


「うぅ、痛いとこつくなぁ。確かにそうだけど、誰がいいよとか、好きだとか話し合いたかったんだもん」


そのほんわかした空気に圧されたのか、更に可愛らしく拗ねてそんな事を言うマイカ。

さっきの真剣な、少し怖い部分すら感じられたマイカの張り詰めた空気は、もうどこにもなかった。



「次は、誰が来るんですか?」


そのおかげで発言がしやすくなったからなのか、それでもおどおど伺うように、ルコナがそう聞いてくる。


「次は時の根源だな。リヴァっつったか。……ああ、ちなみに今回向こうに帰るのは水のウルガヴだったか」

「……そうですか」


拍子抜けするほどあっさり答えるルッキーに、何やら深く考え込んだ後、頷くルコナ。

何だか、その間に何かあるような気がして、なんとなく気になったオレだったけど。




「向こう、か。それって、こことは違う神様が住む世界っていうか家が別にあるってことだよな? 例えば、このユーライジアの世界と繋がってる扉、なんてものがあったりするわけだ?」


ルレインのそんな言葉と眉を上げるマイカたちを見て、その些細なことはどこかにいってしまう。

というより、ルレインの言う扉と言うものに、オレの中で心当たりと言うかピンとくるものがあった。


それは、長年知りたくても知ることのなかったことの答えとも言っていい。

オレたちの住むユーライジアの世界と、神様の住む世界を繋ぐもの。

それこそが、代々カムラル家が守っているものなんじゃないのかって。

そう、ほとんど確信に近い思いを抱いていたんだけど……。



「うん。あるよ。アルちゃんの……じゃなかった、理事長室のうんと地下の、魔法で何重もの封印を施されてるその場所にね」

「十年ごとにそこで新たな根源を迎え、任を終えた根源を返すことになっているんだ。新しく招かれた根源は、オレ様たちの案内と加護のもと、祭の間だけひとしきり現世を楽しんだ後、どこへともなく消える。いや、任を全うするために、このユーライジアの世界にとける、という表現のほうが近いかもしれないけどな」


そんなオレの考えは、すぐに返ってきた畳み掛けるようなマイカとルッキーの言葉により、一瞬をもって却下される。

言われてみれば確かに思い出せるのは、理事長室のアル……理事長が座る席のその背後にあった、仰々しい開かずの扉のことで。


それじゃあ母さんは一体何を守ってるんだろうって、何の意味があってあんなところに閉じ込められてるんだろうって強く思ったけれど。



「確か、その扉を開ける儀式って随分めんど……ややこしい方法なんだよね?」


それは、母さんの存在を、ひいてはオレたちの存在を否定してしまいかねない言葉のような気がして。

もっとも知りたいその疑問はオレの口からついて出ることはなく。

代わりに出たのは、そんな言葉だった。



「ややこしいって。その儀式の中心人物がそんなんでどうするよ。ちゃんと頭入ってんのか?」

「あはは、中心人物って。オレがやるの確定なわけ?」

「あったりめーだろ! オマエはスクールの頂点だろうが!」



最初は呆れて、次には怒られて。

どっちにしろ迫力だけはなくて。

そうやって、当たり前に接してくれるのがうれしくて。

ルッキーには悪いけど、思わず笑みを浮かべてしまう。

それでさらに睨まれたけど。

その儀式のことは、十年前の先輩たちが残してくれたという資料にも載っていたのでちゃんと憶えていた。


何気に見渡すと、サミィや留学生のルレインやルコナ、しまいにはキミテすら知りたそうにしていたので、オレはそれを思い出しながら言葉にし説明する。


「えっと、まず四人の代表者と、その補佐役を選ぶんだよね」


十年前の資料によると、北に光の神、南に闇の神、東に火の神、西に氷の神などど呼ばれる代表者をおいて、前夜祭にかけて扉を開けるための祈りを捧げる、とある。

その祈りとは、古代の言葉で書かれた歌の音系魔法(風魔法の一種で、歌と魔法が混ざったもので、あつかいが非常にむつかしい)で。

一晩中となるとさすがに人を選ぶんだろう。


その四人の代表者には、見合った実力と根気が要求される。

その手伝いをする四人の補佐役も重要だ。

代表者の声が出なくなる、なんて不測の事態が起きたときの、代わりをつとめなくてはならないからだ。



「代表者なんてもう決まってんだろ。火がカリス、氷がキキョウ、光がルート、闇がマイカだって」


当たり前のように、四王家の代表者の名前を口にするルッキー。

確かに、スクールの成績のことを考えれば、順当なところなんだろう。


キキョウみたいに音系魔法……じゃなく、歌が得意じゃないオレにしてみれば。中々に重圧のかかるご意見だったけれど。



「となると、決めなければならないのはその補佐役、か」

「え? それこそ決まってるんじゃないの?」


続いたタインの言葉に、オレは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

オレがもし代表者になったのならば、最初からその補佐役はサミィがいいなって思ってたし、ルートにはタインが、キキョウにはルッキーがいる。

それにマイカにだって……。



「……っ」


キミテがいるじゃないか。

そう思って視線を向けると、ぷいっと視線を逸らされる。

それがあまりにも露骨で、正直傷つくわけなんだけども。



「……あいにく生粋の魔精霊には無理なんだよ」

「あたしは生粋じゃないから、たぶん大丈夫だと思うけど」


ルッキーが拗ねたように、マイカも心なしか不安げに、そんな事を言う。


「そんな事、先輩たち引き継ぎのやつに書いてたっけ?」

「書いてあるわけねえだろ。一昔前までは、人間以外のヤツラが役員をするなんてありえなかったからな」


だからこそ、こうやってみんなして集まって決めよう、ってところなんだろう。


「つまり、誰と誰が組むかはまずおいておくとしても、ここにいるみんな……ルレインやルコナたちはもちろん、サミィやキミテにも力を貸してもらわなくちゃいけないかも、ってことだね?」

「うん、そゆこと。サミィちゃん呼んできてくれて話す手間が省けて、正直助かったよ~」

「ええっ?」

「……」


話の流れからいって、儀式に耐えうる力を持つ人ってことを考えると、ここにいる面子が適任だろう。

もっとも、それは交友範囲の著しく狭いオレの見解にすぎないし、正直に言えば実力とか全然知らないのに、ノヴァキの顔も浮かんだりもしていて……。



             (第15話につづく)






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