第13話、大切な人も守れなかったのに。その時その瞬間、一体何を守っていたのか
「だぁっ、黙って聞いてればユルい奴らめっ! いいわけねーだろっ! お前らは根源魔精霊を呼ぶのがどれだけやべえのか分かってんのかーっ!」
ある意味魔法めいたキキョウのその声に、全くこたえていない人物が一人いた。
キキョウの肩口にふわふわと浮いている青銀の羽根をぱたつかせている彼の名はルッキー。
針のような銀の髪に、鋭く冷たい青の瞳。
見た目だけなら古の魔人族すら髣髴とさせる佇まいだが、小顔なキキョウよりもさらに一回り小さいどころか、その頭に乗っていても気にならないくらいの大きさしかない。
そんな彼は氷の魔精霊……またの名を雪妖精と呼ばれる種族で。
キキョウの頼もしい守護者でもある。
だが、その小ささがいけないのか、キキョウは彼に対し愛玩動物のような感じで接している。
その事にルッキーが気がついていない様子なのが、今まさに態度と言葉となって現れているわけだが……。
「こわい人たちなの?」
「あ~、神って呼ばれるくらいだから、中にはそう言うのもいるだろうけど。そう言う意味じゃねえよ。根源魔精霊ってのはさ、普通人の前でオレ様は神だ!なんて公表して歩いたりしねえもんなのよ。下のヤツラや人間たちにてめえの名前つけさしたりして自分が神であることを、隠そうとする」
こう見えても、いろんな知識が豊富で。
難しい話をする時は、結構彼がその話の中心にいたりする。
だからキキョウも含めて、オレたちは彼のことは一目置いている。
まあ、見た目が愛いやつだから、その事でからかったりはするけど……。
「つまり、普段はその正体を隠してるのにわざわざご指名で呼ぶわけだから……」
「その高貴なる命を狙いし不届きものも出てくる、というわけか」
ルッキーがここで強く訴えたかったことに気付いたらしい。
マイカとルートが真面目な顔で言葉をつなげる。
「まあ、くさってもオレたちの頭張ってるヤツラだからな。そう簡単にはいかねえだろうが、ヤツラは世界そのものだ。もしがあれば世界が壊れる。祭りの余興の一つだってタカをくくってっと、トンでもねえことになるぞ」
「ああ、そう言えば聞いたことあります。前回……十年前でしたっけ。たいへんだったそうですよ。大事なお客さんを守るために当時の役員たちは祭りが終わるまで寝ることもろくにできなかったそうです」
正直、続くルッキーの言葉は、規模が大きすぎてあまり実感が沸かなかったオレだったけど。
タインが思い出したように言った言葉は、ルッキーの言う『どれだけヤベエ』かってことを分かりやすく説明していた。
「ああ、それは私も父上から聞いたことがあるな。十年前の客はそれは大きな黒い竜だったらしい。一目見たいと人が際限なく集まってきて、それは大変だったそうだ」
十年前。まだ父さんも母さんもそばにいてくれた頃の話だ。
当然、前の祭のことは憶えている。
何も知らないオレたちは、当時の役員たちをそっちのけで、優雅に空を飛び回る黒竜を見て、強い感動を覚えたものだ。
そのことで、魔物の大群がユーライジアを襲ったなんてことを知ったのは、何もかも終わってから、だったけど。
「俺も見てみたかったな。俺たちの国にも噂広まってきたくらいだもんな。そりゃあ魔物の奴らも見に来るか」
「……っ」
「レイっ!」
単純な羨ましさからきてたんだろう。
他意のないルレインの言葉。
それまでただ話を聞いていたサミィが表情をなくし、ルコナが咎めるみたいにルレインの名を呼ぶ。
マイカの表情が、悲しげに歪むのが分かって。
彼女たちから視線を逸らすみたいに、キミテが顔を背けるのが分かった。
他のみんなは、言うべき言葉を失っている。
それは、タインが言ったのともう一つ。
この話し合いが、これからオレたちがすることが、軽い気分でできることではないことを強く実感させられたからだろう。
また同じ悲劇を繰り返さなない保証なんてどこにもない。
みんなの気持ちが重く沈む中、オレだけが他人事みたいにみんなの様子を伺っている。
その悲劇の、当事者のはずなのに。
「……っ、なんつーか、すまん。軽率だった」
そんなオレを見てどう思ったのか、最後に目があったルレインは、はっと我に返ったみたいに飛び上がって、深々と頭を下げた。
……オレに向かって。
何だかそれがとてもいたたまれなくて、オレはわざと明るい声を出してそれに答えることにする。
「いやいや。謝らなくても。どっちみち、祭を行って神様を呼ぶ以上、過去に起きた問題点ってのはどうしても掘り起こさなくちゃいけないことだからね。むしろ率先して議題にすべきことだと思うよ。同じことを繰り返さないためにもさ」
今回の祭を運営する任を負った以上、それは是非に考えなければいけないことではあった。
自分では中々言い出しにくかったし、マイカもルッキーも遠慮してる風だったから、ひどく恐縮してるルレインには悪いけど、こういう展開になったのは僥倖かもしれない、なんて思うオレである。
だから笑ってそう言うと、気まずそうに口を噤んでしまったルレインの代わりに、タインが助け舟を出す形で口を開いた。
「つまり、祭の開催にあたって、それ相応の危険を覚悟しておけってことですよね。でも俺、前々から思ってたんですが……たかがなんて言ったら失礼なのかもしれないですけど、祭の一行事のためにどうしてそんな危険なことをする必要があるんですか?」
それはいみじくもお客さんに根源魔精霊を呼ぶ意味で。
世界の守護者の一族であるオレにとっても、知りたいことでもあった。
何故ならば祭を行うこと自体が、オレたちカムラル家と密接に関係してるらしいからだ。
十年前はそう言うものなんだと、自分の番が来れば分かることだろうと思っていたけど、今はその関係について知りたいって気持ちが強くなっているのは確かで。
それにオレは頷き、おそらくは何らかのことを知っているだろう、マイカやルッキーのほうに視線を移す。
「理由を話せば長くなるんだけどな。答えだけをあげるなら、十年に一度、根源のヤツラを呼ばなければ、やっぱりこの世界は壊れちまうってとこか」
「来ても来なくても世界の危機か。まるで諸悪の根源だな」
「うまいこと言うねえ」
そしてルッキーが発した言葉は、先程とあまり変わらない内容のものだった。
それに対しタインが呆れたように言葉を返し、ルレインがそのことに感心したような呟きをもらす。
するとすかさず、それぞれの主に睨まれて。
すごすごと口を噤む様が何だか似通ってて。
オレは思わず苦笑してしまって……。
(第14話につづく)
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