第12話、世界の至宝を支えうる未来の英雄たちとのあれこれ



そこは、ちょうどルートと対面になる席。



「すまない。楽しくが基本のお茶会なのにな」

「いや、こっちこそ。遅れたのは事実だし」


隣でサミィとタインが、バチバチやってる(タインは付き合ってるだけだろうけど)のを横目に、オレとルートはそんなやり取り。

するとすぐに、柔らかな笑みがルートに浮かぶ。



ルートはガイゼルの名にふさわしく、きりっとした気配を纏う、こちらは正真正銘の実直を絵に描いたような少女だ。

質感のある長いカラスの濡れ羽色の髪は、きっちりと後ろに纏められており、その黒真珠のごとき瞳は、怜悧な輝きと、熱い炎のような強い意志が内在している。


それだけを並べると、まさしく近寄りがたき美しさをもった少女であるけれど。

彼女は生徒会の仕事とともに、スクール内の『風紀』……治安を守る長をも兼任している彼女は、懐の深い、皆の姉のような存在でもある。


身内にはちょっと厳しいようだけど、やはりオレたちの幼馴染一人で。

髪がきっちりしてるのは、纏めておかないとあっちこっちに髪が暴発するからだとか、実は小さな動物が物凄く大好きだっていう、お茶目な部分も知っている。



「おまたせーっ」


と、そんなやり取りをしてる間に、マイカが四人分のお茶を持って帰ってくる。

顔を上げると、さっきの仕事のカタがついたのか、キミテの大きな姿もあった。

同席を遠慮するうちのメイドさんたちと同じように、サロンの白壁に立ち、随分と小さく見えるカップを弄んでいる。

もう顔合わせはしていたのか、彼を気にかけるものはなく。



「それじゃ会長、始めよっか」

「あ、うん。……ええと、今日は来年の建国祭のお客さんを誰にするか、だったよね?」


ユーライジア建国祭。

それは、毎年行われるユーライジアスクール建学祭のさらに上を行く、十年に一度のスクールあげて国あげての最大の催し物だ。


その一番の目玉として、大物のお客さんを迎える企画があった。

お客さん……それは、根源魔精霊と呼ばれる、世界に十二人しかいない神様のことで。


オレたち新しい生徒会にとって、とても名誉なことであり、大きな仕事でもあった。

誰を呼ぶかはもちろん、神の住む世界に暮らすと言われる彼らをどう呼ぶのか、呼んでからどう楽しんでもらうのか、考えなければならないことはたくさんある。


まだ一年も先のことだが、今から準備しても全然遅くないわけで。

それならこうやってお茶会をしてるわけだし、その時にでも相談しようってことになったのだ。



「ちょっと待ってくれ。……じゃなくて、発言してもいいかな、姫?」


誰にするかより誰にするかを決める方法をどうするのか、なんて聞こうとしたら、挙手しながら言葉を発したのはルレイン・セザールだった。


白銀の短髪に、意志の強さとした高さを表わす太い眉。

どこか斜に構える節のある、同学年とは思えないくらいに渋い雰囲気を持つ少年だ。

その背は、座っていても分かるほどに高く、背だけならキミテより高いんじゃないだろうか。


しかし、威圧する感じは全くなく。

物腰柔らかく、ルレインは隣の少女……ルコナ・アーヴァインに問いかける。


「あ、えっと……た、多分」

「ああっ、あなたたちが間に受けることはない。さっきの言葉は忘れてくれ」


恐縮しきった様子のルコナ。

それに慌てた様子を見せるルート。

ルレインは、その事を分かっててそう言ったんだろう。


オレは、意地悪くも僅かにルレイン唇が笑みの形を作ったのを見逃さなかった。

それに、仕方のないやつだなぁって内心苦笑するオレである。


それはルレインがルコナに対する愛情の裏返しなんだろう。

好きだからこそいじめたくなるっていう、あれだ。

ルコナ自身もルレインのことを信じきっている節があるというか、そんな風にからかってるルレインのことなんて気付いてもいないんだろうけど、光と月の国ラルシータの姫であるルコナに対し、騎士であるルレインは全くその自覚があるようには思えないのだ。


少なくとも、自分を仕えるものであるとは見ていない。

可愛い妹をからかって楽しんでいるような……そんな風にも見える。



ただこれは、オレにとってみれば彼に対する褒め言葉でもある。

自覚はともかく、騎士としての役割をちゃんとこなしているし、そこにはただ仕えるものと仕えさせるものの関係に留まらない、深いつながりのようなものを感じたからだ。


その、一番の原因は。

そんなルコナが、所謂嗜虐心をそそるような、大人しくて引っ込み思案な少女だからなんだろう。


白金のような長い髪に、壊れそうなほどに線の細い身体。

いっつもおどおどしていて、赤面性で、オレよりも背が高いのに、守ってあげたくなるくらい小さく見えるのは、もはや彼女の才能なんじゃないかなって思うくらいである。



「それで、発言って?」

「ああ、うん。その神様を呼ぶってやつさ、生徒会に任されてるとはいえ、ユーライジアの一大事だろう? 同盟国とはいえ、俺らに話しても平気なのか?」


オレが苦笑を浮かべながら話を先に進めると。

返ってきたのは今まで考えも及ばなかった、そんな言葉だった。



「別に大丈夫だよね?」

「どうですか、議長?」


すぐに答えようがなくて、思わず副会長であるマイカにふると、それをそのまま流して、その横にいた……終始笑顔のほんわかとした女の子、キキョウ・ヴァーレストに問いかける。


「ふわっ、わ、わたし? ん~と、大丈夫だと思うよ? だってみんな仲良しさんだもん」


ふわふわのカールのかかった向日葵色の髪と、どこまでも純粋な朱を滲ませた、大きな黒曜石の瞳。

我が生徒会の雰囲気づくりの達人にして議長でもあるキキョウの声は、そののんびりした口調とあいまって、有無を言わさぬ説得力を持たせる。


それは、彼女が声に魔力を持たすことのできると言われる、レスト族と呼ばれる希少種族だからに他ならない。


何でも、人間でもあり、魔精霊でもある不思議な種族らしい。

歌が物凄く上手いこと以外に、オレやマイカたちと変わりはしないから、その種族の謎についてはあまりに気にしたことはなかったけれど。


まさしくキキョウの一声は鶴の一声で。

話し合いが膠着した時なんかは、なくてはならない存在だと言えるかもしれない。

例のごとくこの場も、キキョウがそう言うのなら別に気にしなくていいかって感じになったわけだけど……。



            (第13話につづく)






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