みるく~俺の家族の話~

おみくじ

読み切り

6月12日午前4時頃、俺の愛犬みるくが息を引き取った。享年10歳11ヶ月


家では犬を4匹に猫を1匹飼っていた。


みるくはそのなかで特に俺に懐いてくれ、俺が呼ぶとすぐに来てくれた賢いコだった。


4匹いた犬の中で一番凛々しく綺麗なコだった。


子供を6匹産んだが、その時も泣き言を言わずドッシリと構えすべて元気に産んだ我慢強いコだった。


まだ幼い甥っ子が加減なく掴んでもあまり怒らない優しいコだった。


みるくは俺が仕事で居なくても大抵俺の部屋にいたそうだ。


夜寝るときもいつも一緒に寝ていた。


ただ、シングルベッドのド真ん中で寝るコだったから、俺はいつも少し窮屈に寝ていた。




6月11日の午前11時過ぎに、みるくの様子が明らかにおかしいことに気づいた。舌の色が青白く、全身を使って荒い呼吸をしていた。オマケに咳だ。何かを肺の方から吐き出そうとする咳をしていた。


俺は家族にみるくの様子がおかしい、病院に連れていくと説明している途中みるくは息を荒げながら後ろ足を後ろに滑らせながら横に倒れた。


俺は急いで母と動物病院へ向かった。幸いにも他に患者は少なく、すぐに順番が回ってきた。


だが不思議とみるくは病院に近づくにつれて多少息は荒かったが、元気になっていたように見えていた。


その時の獣医の話では心臓に負担がかかっているのかもしれない、肺に水が貯まっているかも、と言っていた。


レントゲンなどの検査もしてもらおうと考えていたが、獣医は注射を打ったところだし、今は落ち着いているし負担になるからと後日にする事をすすめてきた。


その時は確かに元気になって呼吸も落ち着いて、いつも通り歩いていたからそうすることにしてしまった。少し強引にでもやってもらったら、変わっていたかもしれないと悔やんでいる。


そして、その日の17時頃にまた少しみるくの呼吸が荒くなっているような気がした。


心配になり昼間に行った病院に電話をかけて様子を伝えたが、呼吸の様子はさっき病院に来た時と同じくらいかと聞かれ、同じくらいに感じたので心配のしすぎかと笑ってしまっていた。


でも、やはり心配なものは心配だったので次の日に別の病院でも一応診てもらおうと考えていた。


そして、朝方の4時頃に俺はふと目を覚ました。


目を開けると二階にある俺の部屋へみるくが来て俺のベッドに上がって横になった。


少し撫でてやり苦しそうだったので抱き上げて水を飲ませようと皿を近づけると、咳をした。


血の混じった液体が俺の手に少しかかった。


俺は直ぐ様深夜に…いや朝方でもやっている動物病院を探したが車でも1時間かかるところしか見つからなかった。


だが一階に降り母を起こしその病院に向かうから着いてきてくれといい、二階に戻ると父がみるくを抱いてくれていた。そしてみるくを受け取り出発した。


運転をするために母にみるくを預けようとした時に両前足で俺の腕を掴んでいたが、俺は放してしまった。今思うと俺に抱っこして欲しかったのかと思っている。


小雨の降るなか出発して15分程、信号待ちで後ろのみるくの頭を撫でた。荒い息を吐いてはいた。


だが真っ直ぐにこちらへ、綺麗で澄んだ眼を向けていたのを覚えている。


信号が青になり、少しして容態が悪化した。


息が出来なくなったようだった。


俺は直ぐ様母に人工呼吸をしてやってくれと言い、してもらったがみるくの口から出るのは空気ではなく水だったそうだ。


俺自身はダメもとで近くの大きめの動物病院へ向かいインターホンを鳴らしたが、誰も出なかった。


直ぐに走り出したが、母は俺に車を止めるよう言った。




みるくは死んでしまった。




泣きながら車を止めた俺に同じく泣きながら母は俺へ、


【運転、変わるからみるく抱っこしたげ、あんたの事が大好きやねんから】と。


俺は後部座席に移り、みるくの力の抜けた体を抱き上げその顔を見た。


苦しかっただろうに、その顔は眠っている時と同じ表情だった。


最後までみるくは、賢く、綺麗で、我慢強く、優しいコだった。



俺は【お疲れ様】と声をかけみるくにキスをしてから、声をだして泣いた。




まだ暖かいみるくを家に連れて帰ると、起きていた妹が甥っ子を抱いて信じられないと泣き出した。


俺と母と妹は泣いた。甥っ子はまだ分からないから、キョトンとしていた。

父は涙こそ流していなかったが、辛そうな顔をしていた。

他にも犬と猫を飼っているが全員臭いを嗅ぎに集まっていた。


時間がたち、ほんの少し落ち着いてからみるくを俺のパーカーを敷いた段ボールに寝かせて自分の部屋に連れていった。


冷たくなり出したみるくを撫でながら俺は【みるく大好きやでありがとう】と泣きながら話しかけていた。



日が昇って父が仕事に出るまえに、眠れなかった俺に【行ってきます】。みるくには撫でながら【バイバイ、おやすみ】と言い出掛けていった。


※後で聞いた話だが父は他の犬達にオヤツをやっているとき、一人でコッソリ泣いていたそうだ。


昼前に俺は花を買いに行った。菊科の黄色とピンクに少し近い紫の花を買った。色はみるくに似合うと思ったからだ。


帰ってからは仕事で出ていた父以外の4人でみるくに花を飾り、他にも好きだったオヤツやオモチャも一緒にいれた。


供養してくれる場所へ連絡をいれた後みるくに最後のお別れを言い、仕事の父以外のみんなでキスをした。


妹も着いてきたがっていたが、残念ながらこの時甥っ子が熱をだしてしまっていて着いてこれなかった。


俺は運転を母に任せみるくの箱を抱えながら目的地に向かった。


道中何度も信号に捕まり、二人で【みるくが別れを惜しんでんのかな】と冗談を言い合いながら少しずつゆっくりと向かった。



到着し、係りの人に引き渡す時にお別れを

言いまた涙が溢れてしまいそうになった。


そして係りの人にお願いしますと頭を下げ、何度も振り返りながらその場を後にした。


その時母が涙を浮かべた顔で俺に【体はなくなってもみるくの心はあんたにくっついてるやろな】と言い、また泣いてしまった。



家に帰り遅めの昼飯を食べて、いつの間にか土砂降りに変わっていた外の景色を眺めた後、俺は眠れないだろうが寂しくなった自分の部屋のベッドに横になった。







………このベッドってこんなに広かったんやなぁ…

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