トナカイの鈴
宇佐美真里
トナカイの鈴
雪の降るクリスマス。
暖かい部屋の中で、男の子が姉さんに言いました。
「お姉ちゃん。これ、クリスマス・プレゼントだよ」
差し出された小さな掌には、大きな鈴が乗っていました。
よく見るとそれは、鈴の形をしたキャンディーです。
「プレゼント?!」
小さな弟が、姉である自分にプレゼントをくれると言うのです。
「うん…。鈴のキャンディー…」
一瞬、顔を曇らせて男の子は言いました。
「お姉ちゃんは、サンタクロースに会ったことがある?」
男の子は話を始めました。
「僕ねぇ、見たよ」秘密だと言わんばかりに声をひそめます。
「サンタさんが、街角であちこちの家を調べてたんだ。僕たちの家もね」
「そんなはずないわ」大きくなった姉さんは、全く信じていません。
何故って?サンタクロースは居ないのですから。
いえ、少なくとも姉さんは、そう思っていたのです。
「本当だってば。僕見たもん。サンタさんが持ってた紙に、いっぱい友達の名前が書いてあったもん。あの紙を見てプレゼントを配るんだよ…きっと」
「あなたの名前もあった?」
「あったよ。だから僕にもサンタさん、プレゼントくれるはず…」
そう言った後、男の子は、どうしたのか、急に黙り込んでしまいました。「どうしたの?」
「でもねぇ…」男の子は、悲しそうな顔をします。
「お姉ちゃんの名前はなかったの…。だからね、僕お願いしたよ。お姉ちゃんのプレゼントも忘れないでって。一生懸命お願いしたから、お姉ちゃんにも持ってきてくれると思う…。でも、もしサンタさんが忘れちゃったら…お姉ちゃんがかわいそうだから、僕がプレゼントあげるね」
そのプレゼントが『鈴のキャンディー』だったという訳です。
「ありがとう…」お姉さんは、ぎゅっと弟を抱きしめました。
なんと優しい弟なのでしょう。
「大丈夫よ。しっかりお願いしてくれたんだもの。サンタさんも忘れないでくれるわよ」
こんな優しい弟を抱きしめていると、大きくなった姉さんも、昔信じていたようにもう一度、サンタクロースを信じてみたくなりました。
そう。サンタクロースが家の前にやって来て、二人のプレゼントを置いていく様子が思い浮かびます。
「えっ?!」
家の外にサンタクロースが?!
姉さんは窓の外に、サンタクロースを見た様な気がしました。
咄嗟にお姉さんは弟を抱いたまま、ドアを開け雪の中、外へと飛び出します。
辺りを見廻しましたが、誰一人見当たりません。
代わりにそこにあったのは、赤いリボンのかかった小さな箱が二つ…。
そして、遠くで響く鈴の音だけでした。
-了-
トナカイの鈴 宇佐美真里 @ottoleaf
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