第53話 君の瞳
すっかり眠ってしまったその顔をじーっと眺める。連日徹夜でダーツをしていたらしい剛は、それはもう気持ちよさそうに眠っていた。すやすやと寝息を立てて、その目はピッチリと閉ざされている。
(ちょっとくらい良いかな)
なんて思って、剛の耳たぶをふにふにする。その感触に、なんとなく安心感を覚えた。この安心感は、剛と出会った時にも感じたような気がする。確か剛の家に泊めてもらう事になった時のことだったか。あの日から今日まで、思い返せば凄まじい勢いで駆け抜けてきた。急に暁君がいなくなって、二人きりで夏祭りに行ったと思ったら今度はこんな組織に身を置くことになっていた。ここにいる人はみんないい人だけれど、やっぱり不安は拭いきれない。この先、私はどうなるんだろうって。
(それにしても、不思議だなぁ)
私は、剛は未来を知っているのではないかと思ったことがある。それがお祭りの時。後から翔君に聞いた話だけど、剛は、カケル君が駆け付ける事を前提として考えるなら、限りなく最適に近い逃走ルートを通っていたらしい。あの時はがむしゃらに逃げていたから、運が良かったということもあるだろう。でも、剛には何となく戸惑いが見えなかった。厳密には、剛が見せた戸惑いがなんとなく偽りに見えた。
……でも揺るがない事実として、私は剛に守られた。そこを疑う気は一切ないし、私は全てにおいて剛を信じている。けれど、もし剛が全てを知っているのなら。私は、それが心配でならない。その未来を、剛一人で抱え込んでるんじゃないかって。
「ねぇ。剛は、何を見てるの?」
剛の瞳は、本当に今を見つめているのか。自分の欲を言えば、剛には私を見てほしい。今の私を、異性として。過ぎたわがままだって、分かってるけど。そんな気持ちを、マリーゴールドの花飾りをいじくって、ズレたその髪飾りと一緒に補正する。
「とりあえず寝なきゃ。……おやすみ」
そう言って、最後にほっぺたをちょっと触り、ついでに耳たぶでもふにふにして布団に入ろうとしたら……
「夜遅くにごめんね?穂ノ原さ……」
目が合ってから数秒の硬直が発生して、
「あ……」
「ごめん。ほんとに。ごめん」
「ち、ちがくて……!」
……なんだか、誤解が生まれた気がする。
Iの旅人 イエスあいこす @yesiqos
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