人は皆、誰かの役に立っている

『あなたの悩みお聞かせください』


 ある商店街の片隅に女は店を構えていた。

 出張式の悩み相談室。小さな簡易小屋を造り客の悩みを聞く。そして、しばらくすると店をたたみ、また次の街で悩みを聞く。そんな出張式の悩み相談室の噂は方々で立っており、どの街でも客足は途絶えることがなかった。


「私、自分に価値がないように思うんです……」

『そんなことありませんよ。人は皆、誰かの役に立っているのです。あなたもきっと誰かの役に立ってます。自信をお持ちなさい』


 ほとんどの客が自分に自信が持てないでいる。そういう時に女は決まってそう言うのである。


「僕、この先どうしたらいいのか……」

『大丈夫ですよ。人は皆、誰かの役に立っているのです。あなたのおかげで幸せになっている人だって必ずいます。自信をお持ちなさい』

 その言葉を聞き、憑き物が取れたように晴れやかな顔になった客は謝礼金を置いて小屋から出ていく。来た時よりも足取りは軽くなっている。


 終電がなくなるとさすがに客も来なくなる。今日の仕事もそろそろ終わり。

 女も一息つく。

『ほんと皆さん、もっと自信を持たないといけませんよねぇ、役に立ってない人なんていないんですからね。現にほら、ひい、ふう、みい、よお……少なくとも私は皆さんのおかげで幸せになっているんですから』

 札束のかたまりをバッグにしまい、ウフフと笑った女は小屋を片付ける。

『さぁ、この街の人たちの悩みも大方解決できたから次の街へ行こうかしらね。次の街でもたくさんの悩み、解決出来たらいいわぁ……』

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一口で読める『まんじゅう小説』つぶあん編 蟹味噌 崇太郎 @kanimisoman

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