黒い剣豪編
第44話 謎の影
魔王レイン、か…。
あのネヴィルスとつるんでいるからには何かあるのだろう。
まさか、僕の種を潰したのは…
闇の中で独り、彼は呟く。
結論の出ない終わりなき思考を描きながら。
「…少し、ちょっかいをかけてみるか」
が、この日は珍しく、自身でその円環を断ち切った。
「主様、失礼します!」
良天候のもと丘の上から街の様子を眺めていると、突如シュンッととう音と共に背後にマダラが現れた。
「どうした、マダラ」
「怪しげな魔物らしきものが単騎、街道から街に向かっております。」
「ほう」
怪しげな魔物が単騎か…
災厄に関係する者の可能性も考えられる。一応警戒しておこう。
「そいつが囮で本命が周囲にいる可能性もある。マダラは引き続き警戒、そいつの対処はカミナに任せよう。単騎戦ならあいつが適任だ。」
「了解しました。」
俺が指示を出すと、マダラは一瞬で姿を消す。隠密ってあれだな、かっこいい。
俺も心配だし一応様子を見に行くとしよう。
ラティル、カミナに繋いでくれ。
《イエス、了解しました!》
ラティルは仲間達とテレパシーで繋がることができる。だからこうして、こちらから繋ぐこともできるのだ。必要なときは、その逆もありえる。
《何か御用でしょうか、レイン様。》
カミナの声だ。テレパシー通話はちゃんと機能しているらしい。
《カミナ、どうやら街に魔物が近づいているらしい。場所は街道だ。俺も一応向かうがカミナに対処を任せる。》
《了解しました。》
さて、じゃあアルス、近辺の警戒と街の守護は任せる。万が一こちらに向かっているものが災厄だったら、俺だけでは手が足りない。
街の方は任せたぞ。
『我も災厄とやらと戦ってみたいが…まあ主の命なら仕方がない。』
うん、そうしてくれ。
アルスはしょんぼりしたような声で了承する。なんか可哀想だし今度遠出して強力な魔獣でも一緒に狩ることにしよう。
俺は空間魔法の亜空間倉庫を開く。アルスは俺の召喚を介することなくここから自由に出入りできるのだ。
一方その頃、レインから謎の魔物らしきものの撃退を任されたカミナは、瞬時に支度を済ませて街道を進んでいた。
マダラの情報によると遠目には黒っぽい衣に身を包んだ人型の魔物ということだった。
単騎でこの街をおとすつもりなのだろうか…。いや、それほどの自信ということも…。
いずれにせよ、敵わない相手の可能性も考えて警戒を怠らないことだ。自分を信じて任務を与えてくださったレイン様のためにも。
綺麗な街道を歩いている。両隣は森林、いくらか魔物の気配もある。
それにしても、いい天気だ。
街道を行く謎の影は、天を仰いで思想に耽ける。
…ぼくには、何も無かった。
気づいたらそこにいて、何も知ることなく命じられた。
その理由どころか、自分が何者なのかすら分からない。
過去も未来も分からない自分を、自分と言うのかも分からない。
名すら無い、あるのは絶えず湧いて出る黒い虚無。
そして、己という
ああだれか。ぼくに、いのちを与えてくれ───。
主からの命令で道を駆ける紅白の鬼、対人戦闘対魔物戦闘、どちらにも優れた能力を持つカミナが、おぼろげに来訪者の姿を目視した。
謎の影は空を眺めながらのんびりと寄ってくる。
白昼堂々、街道を歩いてくる気配はどこかいびつで、魔物か否かも定かではなかった。
しかし、カミナはその謎の気配の全貌を捉えた途端に、驚き絶句することとなる。
「っ?!」
カミナの声にもならない衝撃が、目の前に佇む異様を写している。
そう、現れたのはカミナとは正反対の色に包まれた───しかしその容姿はカミナそのものとしか思えない、黒き鬼であった。
虚飾の魔王 螺扇 @RaRa_Rasen
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