地震<雷<火事 <<<<< マイクロハムスター

ちびまるフォイ

マイクロハムスターの適応力

「わぁ! かわいいハムスター!」


「そうでしょう? 実は最近作られた品種でしてね。

 マイクロハムスターっていう最も小さい品種なんですよ」


女の子がマイクロハムスターを手に乗せると、

小指の爪よりも小さなハムスターの愛らしさにメロメロだった。


「小さいからエサ代もかからないし、小さいから大きなケージも不要。

 小さいから飼いやすくて、小さいぶんお値段も控えめです」


「お母さん、私マイクロハムスター飼いたい!」


「ちゃんとお世話できる?」

「こんなに小さいんだよ! できるもん!」


「そうねぇ……」


これが大型犬やアリゲーターを飼うとか言うのなら全力で止めるが、

毎日ひまわりの種1粒だけでまかなえるほど小さなハムスターなら別だった。


「わかったわ、ひとりで世話するのよ」

「うん!」


女の子の家に愛玩動物の頂点ともいえるマイクロハムスターがやってくることとなった。

数日後にはその体の小ささから脱走してしまう。


「お母さん、ハムちゃんしらない?」


「知らないわよ。ケージにいるんじゃないの?」


「いないの。踏んでないよね」

「わからないわよ。あんなに小さいんだから」


家族総出の大捜索のかいもなくマイクロハムスターは行方知れずとなった。

脱走したマイクロハムスターが現れるのは数日後のニュース映像となる。


『見てください! 商店街の食べ物が一夜にして食べつくされています!

 店主に話を聞いてみましょう』


『まいったよ。うちの家の排水溝からマイクロハムスターが登ってきたんだ。

 まるで津波みたいだったよ。で、奴らが去った跡がこのざまさ』


『以上、現場からでした』


そのニュースも「大変だね」程度で済まされて次の瞬間には芸能人の不倫の話題へと切り替わる。

その間にもマイクロハムスターはそれこそねずみ算式にその数を爆発的に増やしていた。


「お、おい……なんだあれ……?」


とある村の住民が見たのは、茶色の津波が押し寄せてくる光景だった。

その波のつぶひとつひとつがマイクロハムスターだと気づくのは目前に迫ってから。


「わああ! に、にげろおぉーー!」


俊敏なマイクロハムスターから逃げられるわけもなく、

ハムスターの波に飲まれたすべての動物はガジガジとかじられて骨すら跡形もなく消えた。


町をも飲み込んだマイクロハムスター大群は都市部へと襲いかかった。


昨日まで見えいていたはずのコンクリートの地面はハムスター色に埋め尽くされ、

ひとたび足を入れてしまえば体に登られてマイクロハムスターの餌食にされる。


「おい! このビルに入れてくれ!! ハムスターがそこまで来てるんだ!」


「バカ野郎! そんなことしたらドアからハムスターが入ってくるだろ!」


逃げ遅れた人たちはシェルターや高層ビルに逃げ込んだ。

けれどマイクロハムスターはその体の小ささを存分に生かして、空調の隙間や壁の割れ目、換気扇から容赦なくなだれ込んでくる。


「誰か! 誰か助けてくれ!!」


人間の食べ物は食い尽くされ、植物も踏み荒らされ、人間はただの餌になった。

阿鼻叫喚の地獄に耐えかねた人間たちはこの愛らしい動物を駆除すべき危険生物として認定した。


「戦車、発進!!」


ハムスターが床にはびこる町へ最新鋭の戦車が派遣された。

バカでかいキャタピラがハムスターをぶちぶちと踏み潰してゆく。


「た、隊長! 車輪が! 車輪が動きません!」


「なんだと!? 故障か!?」


「いえ、ハムスターが入り込んで……」


進路のハムスターを多少踏み潰したところで意味はなかった。

マイクロハムスターたちは車輪に入り込み、その身をていして戦車すら止めてしまった。


「外へ出ろ! 火炎放射器で焼き付くんだ!」

「はい!」


火炎放射器の炎がマイクロハムスターを次々に焼いていくがキリがない。

どんどん押し寄せるハムスタ-の波に追いやられ、ついには餌食となった。


もはや現代兵器ではたちうちできないと悟った上層部は、

自分たちだけ海の上にある離れ小島で安全に会議をしていた。


「世界各国でマイクロハムスター被害が広がっています。

 荷物にまぎれて世界に繁殖しはじめているようです」


「もういっそマイクロハムスターが増えている一体は核爆弾で消せないか」


「部分的には消せると思いますが、すべて根絶はできませんよ」


「マイクロハムスターだけを殺すウイルス兵器で根絶させるのはどうだ!?」


「やつらは驚異的な繁殖能力と、それに伴うすさまじい適応能力があります。

 仮にウイルスで殺せたとしてもすぐに適応されてしまいますよ」


「そんな……」


命の危険がある小動物ほどたくさんの子孫を残して未来に命をつなぐ。

マイクロハムスターはとくに顕著で、異常な繁殖力はあらゆる環境に馴染める適応力をも身につけていた。


自分の代では死んでしまう病気も、孫、ひ孫、ひひひ孫になれば適応される。

人間のウイルス作戦もマイクロハムスターの前にはトカゲのしっぽ切りでしかなかった。


「まあ、四方が海に囲まれたこの場所なら安全です。

 平民が喰われている間に、識者の我々でゆっくり対策を練りましょう」


「そうだな。……ん? あれはなんだ?」


窓から見えたのは海のうえに浮かぶ茶色の橋だった。


「は、ハムスターだ! 海を超えてやってきたんだ!」


海で溺れた死体が浮かび上がると、それを足場にしたマイクロハムスターが海を超えてやってきた。

すでに宇宙から見た地球は青ではなく茶色。

海面はマイクロハムスターで埋め尽くされようとしていた。


逃げ場のない島に残っていた有識者を食べ終わるのに5分とかからなかった。


地上も海もマイクロハムスターに埋め尽くされた地球は生物が住める環境ではなくなっていた。

食べ物が消えた地球でハムスターたちは繁殖と共食いの無限ループを繰り返している。


「こちら宇宙ステーション。本部、聞こえるか。本部! だめか……」


「やはり地球はもうマイクロハムスターに食べつくされたのか……」


「地球からの支援がないと、このままじゃ飢えてしまうぞ」


「いったいどうすれば……」


宇宙飛行士たちは母なる大地に戻れない絶望に打ちひしがれていた。

そんな中、かつてハムスターを飼ったことがある飛行士が話した。


「私、昔飼っていたハムスターが逃げ出したんだけどね……」


「どうしたんだよこんなときに」


「見つかったのは掃除機のホースの中だったの。

 ハムスターって細くて狭いところに入る習性があるみたい」


「それだ……! それを使うしかない!」


宇宙飛行士は知恵を出し合って、宇宙と地球に細長い筒を通した。

空から垂れ下がる棒状の筒にマイクロハムスターたちは突進していった。


「やったぞ! 狙い通りだ!」


マイクロハムスターは筒に従って宇宙へと進んでいく。

高度や無酸素で死んでも持ち前の適応力でどんどん宇宙へと駆け上がる。


けれどその先には何もなかった。

筒を抜けた先に広がっていたのは広い宇宙だった。


地球で繁殖していたマイクロハムスターはまるで掃除機のように筒に吸い上げられては宇宙空間へと放り出されていった。


地球からはマイクロハムスターが消えて残されたのは食い散らかされた大地だけだった。

宇宙飛行士たちはギリギリのところで地球に着陸することができた。


「私達、やったのね」


「ああ。もうマイクロハムスターを地球から追い出すことができた。

 あとはこの地球をまた俺達の手で復旧させていこう!」


宇宙飛行士たちが手を取り合って、地球再生プロジェクトを始めたときだった。


「なあ、あれなんだ?」


飛行士のひとりが空に向かって指をさした。

目を細めながら見上げた先には三日月状に欠けた太陽が見えた。



「まさか……太陽を食ってる……!?」



マイクロハムスターが太陽を食べ終わると、地球は永遠の暗黒と極寒に包まれた。

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