第6話? 子猫の新天地
吾輩は猫である。名前は……
いろんな名前で呼ばれるけど、ボクはボクだ。
というか、なんで猫の自己紹介は「吾輩……」なんだろうか?
まぁ、そんなことは別にいい。
あれは、よく晴れた日だった。ボクは潮のにおいを感じながら、大きくあくびをしていた。
そしたら、緑色のけったいなヒト……ヒト?ボクの目にはとってもとっても大きなカエルに見えたけど、ゲコゲコとは鳴かなかったから、多分ヒト?が言ったんだ。
「近々、炭鉱の村で祭りがあるでござる!」
って。
ボクは、ワクワクした。だって!祭り!祭りだよ!
ボクが生まれてすぐのころに、王都で大きなお祭りがあったらしいんだけど、僕は幼すぎて王都に行けなかったんだ。
「祭り」が何なのかは、実はちょっとよくわかってないんだけど。でも、おいしいものがたくさんあって、ひらひらの飾りが街にあふれてて、とにかく楽しいものらしい。
祭りに行く決心を固めてからのボクの行動は早かった。
大きくあくびをして、ぐぐっと背中を伸ばしてから、ふんすっと立ち上がった!
よし、まずは祭りに行くヒトを探すぞぉ~。あ、ちょうちょ。
祭りがある炭鉱の村は、遠いところらしい。
ボクは祭りに行きそうな親子にとことこ近寄って、足元で「みゃー」と鳴いた。
動く大きな箱に、ボクの席ができた!
大きい箱は、ガタゴト揺れて寝心地が悪かったり、一緒に乗っているヒトに無遠慮に撫でまわされて、嫌だったりしたけど、祭りのことを思えば我慢できた。
長い時間をかけてやってきた村は、静かなところだった。
王都や潮のにおいのする町と違って、まるでボクたちがうるささを運んできたみたいだった。
まぁ、すぐにヒトがたくさん来て、もっと賑やかになったんだけど。
祭りは楽しかった。
ひらひらは少なかったけど、おいしいものはたくさんあったし、きれいなお花もあった。
それに、潮のにおいも好きだけど、石畳のひんやりした感触が新鮮!
だから、ボクはお祭りが終わった後もこの村にいることにしたんだ。
ボクが炭鉱の村に居ついてから、少し経った。
主な寝床は、そんちょーさん家か、小さい子供のいる家。
そんちょーさん家には、ボク用のふわふわな毛布があるし、小さい子供は、たまに追い掛け回されることもあるけど、なで方が絶妙。あ、そこ、そこもっとなでて……あ~、いい感じ。
村に何人かいるおじさんとおばさんは、みんな美味しいものをくれる。
みんな美味しいんだけど、人によって、刺激的だったり、やさしい味だったり、味の傾向が違うんだ。う~ん。今日は、干した魚のようなうまみの気分だから、酒場によく居るおじちゃんのところにいこーっと。
「どっかーん」「ばっこーん」って大きな音をたてて、強烈な臭いをつけているお姉さんもいるけど……
お姉さんと一緒に橋を渡っておばあさんに会いに行くと、機嫌のよくなったおばあさんがおやつをくれるから、好き。おばあさんのところに行くときは、お姉さんの臭いも大人しいしね。
でも、ボクの一番のお気に入りは、花の咲いた木の魔物!
爪を研ぐのにちょうどいい硬さだし、ひらひら動く枝を追いかけるのも楽しいし、花はいい匂いがするし、頭は苔でふかふかだから、お昼寝に丁度いい。
なでてはくれないし、おいしいものもくれはしないけど、それでも、花の咲いた木の魔物が一番好き!
なのに、なんでかなぁ。
最近、花の咲いた木の魔物はボクを見ると「ぴゅーっ」て逃げるんだ!
ボクは爪を研ぎたいだけなのに!
数日後、ボクはお散歩中の森で「花の咲いていない木の魔物」を見つけたんだ。
ちょうど爪を研ぎたい気分だったから、近づいていったら……
ビュン!
と飛んできた枝で払い飛ばされていた。
ガン!
と硬い木にぶつかって、視界が暗くなっていくボクに「花の咲いていない木の魔物」が近づいてきて……逃げないと、いけないのに、視界がもっと暗く……
◇◇◇
気が付くとボクは、花の咲いた木の魔物の頭に乗って村の中にいた。
それからというもの、花の咲いた木の魔物はボクが近寄っても逃げなくなった。
それどころか、ボクが森に入ろうとすると、どこからともなくやってきて、視界の隅で枝をひらひらって……あ、まって、あ、惜しい!もうちょっと!よし、捕まえたー!
ボクは猫である。名前は、まあいいとして、花の咲いた木の魔物が一番好きな猫である。
ひらひら動く枝も、いい匂いする花も、お昼寝に丁度いい魔物の頭も好きだけれど、爪を研ぐと魔物が悲しそうな雰囲気を出すので、最近は小さい子供の父親からもらった木片で爪を研ぐことにした、猫である。
お祭りがしたい! 秘澄 @Hisumi_
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