第1話 過去4

「俺はどうしても、タンゲツに会いたくて――。今思えばそのせいでトウカはこちらに迷い込んだのかもしれないな。あの日は月が美しかったから、彼女のことを思い出していて。――はじめて鳥居階段でトウカに会ったとき、本当に驚いたんだ。主様の面影があって、タンゲツと同じ瞳までしていたから。主様の次の姿なのだとすぐに分かった」


 トウカはあの夜を思い出す。月明かりに照らされたウツギの姿は美しくて、ひどく儚いと思った。


「トウカは俺のことをなにも覚えていなかった。それでも、主様とタンゲツの面影を感じることができて、懐かしくて、本当に最初はそれだけだったんだ。出会えたことが嬉しかった。トウカのことを手助けして、人の世に帰してやろうと思った。俺は、主様になにもしてあげられなかったから、せめて次の姿になったトウカのことは助けてやりたかった」

「そっか――」


 お人好しで世話焼きの性格もあるとはいえ、ウツギがここまで自分の面倒をみてくれる理由がずっと分からなかった。それが、やっとトウカにも分かった気がした。


「トウカが祖母からもらったというお守りを手放したとき、はっきりとトウカの中にタンゲツの妖力を感じた。彼女がそこにいるんだと分かったんだ。だけどトウカは、彼女のその瞳を嫌いだと言って、彼女の気配を憎んでいた。あやかしのことも嫌いだと言うし――、そのとき、腹が立ったんだ。タンゲツはあんなに、命をかけて主様を守ろうとしていたのに。そんな彼女を嫌うだなんて」


 トウカははっとしてウツギを見た。

 自分がウツギを怒らせてしまった本当の理由はそこにあったのだと、このときはじめて気づいた。その瞬間に、体中から熱が引いていく感覚がした。なにか言いたくて、それでも口から言葉が出ない。無意味に口を開閉させた。

 自分は知らぬ間に、どれだけウツギの心を切り裂いたのだろうか。

 だが、ウツギは力なく首を振った。


「トウカが悪いわけじゃない。トウカにだって色々あったんだろう。その瞳のために、辛いことがあったんだと今なら分かる。でもあの時の俺はそう思えるほど冷静でもなくて――。タンゲツの瞳のことは、主様も大好きだったんだ。綺麗だといつも褒めていた。だから、トウカは主様とは違う人間なんだと思った。魂は同じでも、トウカは俺が知っている主様じゃない。赤の他人だ。だから」


 ウツギは目を伏せた。しばらくの間があって、自嘲の笑みが浮かぶ。


「だから俺は、トウカを殺して、その体をタンゲツに使わせようとした。彼女を取り戻したかったんだ。それができると、バミさんが教えてくれた」


 そう言われて、退屈そうに話を聞いていたシラバミが笑みを見せた。

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