第1話 過去3

 トウカは胸に手を当てた。


「タンゲツは? どうして、タンゲツは私の中にいるの? あの子は呪いをかけられなかったんでしょう」

「あいつも――、タンゲツも主様のことを守ろうとしたんだ」


 ウツギは手で額を覆った。前髪をかき混ぜて、長く息をする。

 トウカは白い女性の姿を思い出した。いつも朗らかに笑っている、すこしのんびりとした女性だった。ウツギと並んで、よく自分の後ろをついてきてくれた。


「タンゲツは、傷や呪いを癒す力に長けていた。それで、主様やヒバリを呪いから守ろうとしたんだ。でもあいつだけの力ではどうしようもなかった。主様が弱っていく姿を見て、あいつも苦しんでいたんだ。それで――」


 ウツギは一度言葉を止めて、唇を噛んだ。


「タンゲツは自分の力のすべてを主様に注いだ。自分が消えるのもいとわずに。俺はそれがもう無駄だろうと思っていたから、止めたんだ。主様がいなくなったとしても、タンゲツだけは生きてほしかった。でも彼女は、なにもしないで主様が死んでいくのを見ていられなかったんだ。すべてを主様に注いだタンゲツは消えて、主様も結局死んでしまった」


 トウカは胸に当てた手からタンゲツの妖力を探した。この体の中にタンゲツがいる。きっと彼女がすべての妖力を注いだときに、トウカの中に彼女の魂がわずかに混ざったのだろう。

 そうして、タンゲツの魂を抱えて今のトウカが生まれた。


「あいつらは必死だった。俺はなにもできなかったのに――。ヒバリもいなくなって、主様もタンゲツも死んで、俺は一人になった」


 時が流れて、ウツギはあやかしの世へ迷い込んだ。そのあと何百年が経ち、トウカも同じようにこちら側へ来てしまった。

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