第6話 悲しい声3
強く瞳を閉じる。
体中を業火に焼かれるような熱と痛みが襲った。奥歯を噛み締めて、声を押し殺す。白い光は今もなお体を包んでいるが、これだけ近寄ってしまえば意味をなさなかった。体中が軋んで震える。
「離して、死んでしまう!」
嫌だ嫌だとあやかしが首を振る。トウカは一層腕の力を強めた。
痛いのに、熱いのに、あやかしから離れるなんて考えは微塵もなかった。自分でも不思議なほどに。
「なんでかな――。放っておけないんだ、あなたのこと。自分でもよく分からないんだけど、とても悲しくて、でも温かくもあって――。大丈夫だよ、私は死なないから」
「駄目だよ。みんな、僕のせいで不幸になるんだ」
「あなたはそうやって、周りを傷つけないために、ずっと一人でいたんだね。でも、大丈夫だよ――、大丈夫」
そう言って、黒い翼を撫でる。もとは肌触りもよかっただろうに、呪いのせいで今はざらざらと指を刺すように痛かった。それでもトウカは翼を撫で続ける。そうしなければならないと思ったし、そうしたいと思った。
どれだけの時間が経ったのか。
あやかしは次第に動きをおさめて、辺りにはしゃがれた嗚咽だけが響くようになった。
「ごめんなさい、僕のせいなんだ。みんな死んで、みんな悲しんで。僕がいなかったら、はやく僕が死んでいれば、みんな、泣かなくてよかったのに――」
トウカは胸が苦しくて、その翼を撫でながら首を振る。
たとえ、このあやかしに触れた者が真実彼の言うように死んでいたとしても、それは呪いのせいであって彼自身のせいではないはずなのだ。
だが、それ以外の言葉を知らないかのように、あやかしは謝罪を繰り返す。何度も何度も、繰り返す。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい――。
「いいの。大丈夫だよ。あなたのせいじゃない」
「違う。僕のせいだ。僕はただ、守りたかっただけなのに――、死なせてしまった――、ごめんなさい」
嗚咽が続く。
殺してしまって、ごめんなさい。
死なせてしまって、ごめんなさい。
泣かせてしまって、ごめんなさい。
傷つけてしまって、ごめんなさい。
そして。
「あなたのことを、殺してしまって、ごめんなさい」
「――え?」
トウカの手が止まる。
――今、なんて。
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