第6話 悲しい声2

「私の声が聞こえる? あなたを助けにきたの」


 あやかしのすぐそばまで近づくと、手を伸ばして翼に触れる。その瞬間腕に熱が走る。だが白い光が熱も痛みも和らげてくれた。これなら耐えられる。

 あ、とあやかしの声がもれた。


「駄目だ、近づいちゃ」


 あやかしは震えながら、嫌だ嫌だとかすれた声で繰り返し、首を振る。


「駄目なんだ――、みんな死んでしまう。僕に触れれば、死んでしまう」

「あなたはやっぱり、私のことを殺そうなんて思っていないんだね。大丈夫、私のことは、この光が守ってくれているみたい。死なないよ」


 あやかしの声があまりにも悲痛で、トウカは苦しくなった。

 あやかしは「離れて」と訴えるだけで動こうとしない。動くだけの力も、もう残っていないのだろう。


「はやく、僕を殺して。みんなが死ぬ前に」

「私はあなたの呪いを解きにきたの。殺しにきたんじゃない」


 トウカはできる限り優しく呼びかけたが、あやかしは首を振り続けた。


「駄目だよ、駄目なんだ。また殺してしまう。みんな大切なのに、みんな僕のせいで――」


 こちらまで泣きたくなるような嗚咽をもらす。

 トウカはふと、その姿に幼い頃の自分が重なって見えた。

 人とは関わりたくない、あやかしにも関わりたくない。そう言って泣いていたときがあった。自分以外のすべてを拒絶していた。その方が、自分が傷つかなくてすむと思ったから。


 ――でも、この子は自分じゃなくて、周りが傷つくことを怖がっているんだ。


 それが、トウカにはとても眩しいものに思えた。


 ――あのとき、おばあちゃんはどうしたんだっけ。


 トウカは懐かしい記憶を辿った。自分が泣いているときに、祖母はどうしただろう――。思い出すと、そのとき感じた温かさが胸に広がって、微笑みが浮かんだ。


「大丈夫だよ」


 ゆっくりとあやかしのもとへ歩み寄る。そして、その首元に腕を回す。自分の方へと引き寄せた。トウカが泣いていたとき、祖母が抱きしめてくれたように。


「離して!」


 瞬間、あやかしは身をよじった。それでもトウカはあやかしを抱きしめた。

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