第9話 夜の訪問者1
それからしばらく経った風もない静かな夜、ウツギの家を訪ねる影があった。
「夜分に失礼する」
「あんた簪屋の――」
気まずそうな顔をしながら、でっぷりとした簪屋の店主はウツギに会釈した。大きな体を居心地が悪そうに縮こませながら茶の間に行き着くと、これまた窮屈そうに腰を下ろす。そしておもむろに懐を探った。
「これを」
差し出したのは――、例の簪だった。深い群青色の美しい石が、ちらちらと揺れる灯りに照らされている。昼に見るよりも不思議な色合いをしていた。
「色々と考えたんだが、まあなんだ、あんたたちが言うように、石を一つに戻してやってもいいかと思ってな」
店主は太い指で頬を掻いた。
「妙な夢を見せる簪を売りつけたなんて噂が立ったらたまったものではないし、この際仕方ない。――この簪を買う予定だったお客にも話はつけてきた。買うのは諦めようと納得してくださったよ。それどころか、石花を一つに戻してやるといいと言ってくれた。派手好きだが、いい方なんだ」
トウカはその言葉にほっとした。
きっと店主は、トウカやウツギの思惑通りに石を渡してくれるだろうという予感はあった。これでも上手く言いくるめた自信はあったのだ。だがあんな説得をしておきながら、店主が客と揉めはしないだろうかと心配もしていたのだ。
店主は息をついて辺りを見渡した。
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