第9話 夜の訪問者2

「あのお嬢ちゃんたちはいないのかい」

「ああ、ヨシノとカグノですか。今日は見ていませんね。もともとここに住んでいる子じゃないですし、最近はよく遊びに来てはいるんですけど」


 ヨシノとカグノはあれ以来、ウツギの家に遊びに来るようになった。神出鬼没な少女たちに最初は驚いたものの、もう慣れてしまったくらいだ。

 だが今日はまだ見ていない。呼べば出てくるだろうか、とトウカが思っていると、


「石!」

「一つに戻れる!」


 ぽんっと煙が立ったかと思うと、ヨシノとカグノが現れた。店主は大きな体をのけぞらせて大仰に驚いた。たいしてウツギは「下駄のまま茶の間に上がるな」と冷静に彼女たちの首根っこを掴む。ウツギも慣れたものだ。


 瑠璃色髪の少女たちはぶうと頬を膨らませたが、下駄を脱いで放り投げると店主の手から簪を奪う。途端に不機嫌な表情は一転して、笑みが浮かんだ。ヨシノはかすかに口角を上げ、カグノは瞳を輝かせて、それぞれの笑顔を見せる。


「いいの、おじちゃん?」

「本当にいいの?」

「あ、ああ――」


 驚きが抜けない様子の店主はどもりながら頷いた。


「おじちゃん優しい、実はいいやつ」

「でっぷりしてるけど、いいおじちゃんだ!」


 二人はそう言うと店主に抱きついた。体の大きな店主はなんとも言えない顔で少女たちを受け止める。でっぷりと言われたのが癪らしい。だが、少女に抱きつかれて悪い気分でもないのだろう。妙な表情だった。

 それを見て、トウカとウツギは思わず吹き出した。


(第四章 第9話「夜の訪問者」 了)

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