第8話 必死の説得1
日があいて、トウカたちはまた簪屋を訪れた。店主はまたしても呆れ顔だ。
騒ぎ出そうとするヨシノとカグノを落ち着かせて、トウカはウツギの方を見た。少女たちの説得ではなく、店主を説得する。茶屋で話してから、二人の考えはそこに固まっていた。ウツギが頷くのを見てトウカは口を開く。
「店主さん、最近妙な夢を見るから寝覚めが悪いって言っていましたよね」
「ああ、そうだが」
「それって――、だれかがずっと泣いている夢じゃないですか?」
「あ? ああ、そうだ。ずっと辛気臭く泣いているから、寝起きから気分が沈むのなんの――って、なんで知っているんだ?」
店主は目を瞬いた。やっぱりそうかと思う。
「その夢は、石の中にいる石花の想いが店主さんに流れて見せているんです」
「この子一つに戻りたいって泣いている」
「ずっと泣いているの」
少女たちもトウカを援護するように言う。店主は簪を取り出して群青色の石を見た。
「そうか――、石花が、なるほどなあ」
意外にもあっさりと頷いた。他にもいくつか説明の言葉を用意していたトウカは、肩に入っていた力が抜けるのを感じた。
「信じてくれるんですか?」
「ああ、まあな。寝るときも石を近くに置くようになってから、その夢を見始めたから。そうかもしれないとは思っていたんだ。だから――、夢の話はひとまず信用しよう。しかし、だからなんなんだ。この簪はもう買い手がついているんだ。あんたたちにはやれないぞ」
憂鬱そうに腰に手をあてる店主に、トウカは深呼吸をする。掴みは好調だ。これならいける気がした。ウツギが教えてくれた言葉を思い出す。そして、ゆっくりと、言い含めるように、
「このまま簪を売ってしまえば、それを買ったお客さんも、石花が泣く夢に悩むんじゃないでしょうか」
そう言うと、店主は「うん?」と首を傾げた。
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