第7話 再訪2
簪屋を出て、トウカとウツギは茶屋の椅子に並んで腰をかけた。
「説得しろって言ったって、どうすればいいの」
団子をかじりながら一人ごちる。ウツギはポチに団子を与えていたが、ふとトウカを見た。
「店主が見たという夢に心当たりがあるのか? さっき、なにか引っかかっている様子だっただろう」
「うん――、多分、店主の夢は石花の想いが流れ込んで見せているものだと思うんだ。辛気臭いって言っていたし。私も、今日そんな夢を見たの。同じ夢だったんじゃないかな」
雨が降るようにしとしとと響く嗚咽の夢だ。
トウカは周りのあやかしに影響された夢をみる。まじない師の素質がある人間に稀にみられる性質だ。一方、店主は石が盗まれることを恐れて寝るときもそばに置いていると言っていた。そのせいでトウカと同じように影響を受けてしまったのだろう。
「店主の夢については、まず間違いないと思うんだけど――」
そう説明していると、
「お腹空いた」
「カグノたちもお団子食べる!」
突然の声がして、トウカは驚いた。ポチも体をびくりと跳ねさせている。
いつのまにか後ろに立っていたヨシノがウツギの腕を、カグノがトウカの腕を引く。お団子、と声をそろえて強請った。驚いていたウツギだったが、仕方ないとばかりに茶屋の娘に団子を二本頼む。
トウカは少女たちに目をあわせた。
「ねえ、二人とも。石のことは諦められない? あの石は高いから、私たちにはどうしようもないよ。店主さんだって商売だから、譲ってくれとも言えないし」
「やだ」
「石の中の子がかわいそうだもん」
「どうしても駄目?」
「駄目」
少女たちの声が重なった。これは説得が難しそうだ。しかし、トウカが肩を落とす横で、ウツギはなにかを思案していた。
「――案外、子どもたちを説得するより、店主を説得する方が簡単かもな」
「どういうこと?」
ウツギはそっとトウカに耳打ちをした。トウカは黙ってそれを聞く。
「お団子、美味しかった」
ウツギの話が終わる頃、運ばれてきた団子を平らげた少女たちは満足そうに笑った。すっかりご機嫌だ。
「今日もウツギの家に泊まる」
ヨシノがそう言うと、カグノは大きく頷く。ウツギはやはり困ったように笑った。
(第四章 第7話「再訪」 了)
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