第7話 再訪1
昼になるとトウカはヨシノとカグノを連れて街に出た。目指すは昨日も顔を出した簪屋だ。
「なんで俺たちまで」
「そういうこと言いつつ、ついてきてくれるんだね」
ふんっとウツギはそっぽを向いた。その肩ではポチが欠伸をしている。結局彼らも少女たちの勢いに押しとおされたのだ。
――やっぱり、お人好しなんだよなあ。
そう思いながら簪屋につくと、声を上げる。
「すみません」
「はいよ――って、またあんたたちか」
簪屋のでっぷりとした店主は、トウカを見るなり呆れた顔をした。
「何度来たって、金をくれなきゃ簪は渡せないぞ」
「簪なんていらないもん」
「石が欲しいだけだもん」
「だから、この簪はもう買い手がついているんだって。渡せないの」
それから三人は「石がほしい」「駄目だ」と同じやり取りを何度も繰り返した。堂々巡りだ。どうしようかとトウカとウツギが目を合わせていると、
「ケチ」
痺れを切らしたヨシノがべーっと舌を出して、煙を出すと消えた。
「待ってよヨシノ!」
カグノも叫んで消えた。つい前日も同じような光景を目にしたな、とトウカは思う。店主も同じ気持ちなのか、深いため息をついた。
「あの子たち、どうにかならないか?」
そんなことを言って肩をすくめてから、店主は大きなあくびをした。体格も大きければ口も大きい。目に浮かぶ涙をぬぐいながら、気まずそうな顔をした。
「ああ、すまんね、お客さんの前で。最近どうにも寝つきが悪くて」
よく見れば、店主の目には隈ができていた。顔色も悪いように見える。眠い眠い、と店主は呟いた。
「眠れないって、どうかしたんですか?」
「ん? あー、最近妙な夢を見るんだ。辛気臭くて寝覚めが悪くてなあ」
「辛気臭い夢――?」
そのとき、店に客が訪れた。狐の耳と尻尾がはえた女性二人が連れ立って店主を呼ぶ。はいよ、と店主は接待用の明るい声を上げた。
「あんた、あの子どもたちと付き合いがあるなら説得しておいてよ。こればっかりはさ、こっちも商売だから仕様がなくてね」
それだけを言って、店主は客の対応に向かってしまった。
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