第6話 涙におぼれる2

「トウカも一緒に行く」


 ヨシノがそう言って、トウカの手を引っ張る。


「簪屋に一緒に行けってこと?」

「トウカも一緒!」


 カグノも反対の腕を引っ張った。トウカは困って視線をさ迷わせる。


「朝から賑やかだな」

「ウツギ」


 襖からウツギが顔をのぞかせた。朝陽がウツギの白髪を照らして眩しい。ウツギの肩には眠そうにあくびをする黒犬のポチもいた。

 トウカは昨夜のこともあって目を合わせることができず、うつむいた。ウツギは不思議そうにしながらも、「簪屋、行ってきたらどうだ? ここまできたら最後まで面倒をみてこい」と言う。


「だがまあ、その前に朝餉あさげだな。食べなければなにも始まらない。一日のはじめはきちんと食事をとらないとな」

「ご飯」

「ご飯!」


 少女二人が目を輝かせた。ウツギは軽く微笑むと、行くぞと背を向ける。ヨシノとカグノはその背中を追いかけていった。


「ウツギも一緒にお出かけする」

「みんなでお出かけするー!」


 廊下の遠くからそんな少女たちの声がした。

 トウカは自分だけが取り残されたような心地に襲われたが、首を振って思考を追い出した。色々と思うことはあるが、今はひとまずヨシノとカグノの面倒をみよう。本意ではないが、彼女たちの世話役を任されてしまったようだし。

 勢い良く頬を叩いて立ち上がった。


(第四章 第6話「涙におぼれる」 了)

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