第5話 椿文様の箱2

「その中には主様が使っていたまじないの道具が入っている。ずっと俺が預かっていたんだが――、これもなにかの縁だろう。トウカにやるよ」


 突然の言葉に目を瞬いた。ウツギはすっと夜空に目をうつす。その瞳には寂しさが影を落としているように見えた。


「その道具箱は主様しか開けられないようにまじないがかかっているんだ。俺が持っていても意味がない。――でも、トウカなら開けられるかもしれないな」

「どういうこと?」

「同じまじない師なんだから、それくらいできるかもしれないだろう」


 静かにそう言うと、こちらに目を向けて微笑んだ。その表情にはなにかもっと言いたいことが含まれているような気がした。だがウツギはトウカがなにかを言う隙も与えず、ヨシノとカグノの方を見る。


「もう子どもは寝る時間だぞ」

「ヨシノ眠くない」

「カグノも!」


 幼い少女二人は頬を膨らませた。眠くない、と連呼する彼女たちにウツギは肩をすくめる。


「おいトウカ。お前が連れてきた子どもなんだ。ちゃんと面倒みろよ」

「え、私?」

「当たり前だろ」


 じゃあ俺は行くからと言い残してウツギは歩いて行った。その後ろ姿を見ていたトウカの腕を少女たちが引っ張る。


「トウカ、遊ぼう」

「うーん――、ちょっとだけだよ」


 ヨシノとカグノは嬉しそうに頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る