第5話 椿文様の箱3
結局ヨシノとカグノはなかなか寝付かず、トウカは少女たちの長い話に付き合うことになった。ようやく二人が眠そうに目をこすりだすのを見て、二人を客間の布団の中へと連れていく。そこからは早いもので、すぐに寝息が聞こえて、トウカはやっと息をついた。
いつのまにかポチも彼女たちの布団の上で丸くなっている。
――子どもって元気だな。
トウカは少女の頭をそっと撫でた。トウカが幼かった頃、眠れないときはよく祖母が頭を撫でてくれた。その手は温かくて、トウカは大好きだった。二人の無垢な寝顔をみていると自然と笑みがこぼれる。祖母もこんな気持ちだったのだろうか。
穏やかな眠りの世界に落ちた彼女たちを起こさないように、そっと客間を出て自室に戻る。トウカは布団に入る前に、ウツギから渡された道具箱を手に取った。椿文様が彫られた朱色の箱。手を添えると、やはりまじないの気配がする。
――ウツギの主人にしか開けられないまじないがかかっているって言っていた。こういうのはアサヒの専門かな。
鍵師の少年の姿を思い浮かべた。閉じられたものを開けるのは彼の得意とするところだろう。今度彼に頼んでみようかと思いながらも、トウカは試しに蓋に手をかけた。軽く力を入れてみる。すると。
「――え」
カタン、と軽い音がして蓋がずり落ちた。
箱が開いたのだ。驚くほど簡単に、あっけなく。
「え、なんで」
トウカは箱をまじまじと見る。ウツギは主人にしか開けられないまじないで閉じられていると言っていたはずだ。どうして開いてしまったのだろう。無意識にまじないを解いてしまったのだろうか。この箱を渡されたときにウツギも「トウカだったら開けられるかもしれない」と言っていたのだし――。
真相は分からない。だからそれ以上考えるのはやめて、トウカは箱の中身に目を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます