第5話 椿文様の箱1

 トウカは縁側で柱にもたれかかった。膝の上には重たい枷。鎖に縛られていた少女、ヒサゴの首にはめられていた枷だ。トウカが彼女の呪いを解いたとき、ヒサゴと鎖は消え去ったがこの枷だけは残った。

 わずかに呪いがうつった枷。ヒサゴの遺したもの。


 ――ヒサゴがいてくれたらな。


 波が引いては押し返すように、その思いは突然やってきてトウカの心を揺らしていく。忘れることは、まだできそうになかった。


「トウカ」

「トウカー!」


 ふいに耳元すぐ近くで聞こえた声にトウカの肩が跳ねた。見ると、瑠璃色の髪をした二人の少女が瓜二つの顔を並べている。


「えっと――、あなたがヨシノで、あなたがカグノね」


 トウカの言葉に二人はうなずいた。

 桜の髪飾りをつけた無表情な子どもがヨシノ、橘の髪飾りをつけた元気な子どもがカグノだ。


「どうしたの?」

「これ、さっき見つけた」


 ヨシノがぐいっとなにかを押しつけてくる。トウカはそれを反射的に受け取りながら困ったように笑った。


「どこから持ってきたの? ウツギに怒られるよ」

「カグノはちゃんと止めたのに、ヨシノが勝手に持ってきたんだよ」


 ぷうっとカグノは頬をまん丸に膨らませた。

 手渡されたのは朱色の道具箱だった。椿文様が彫られた繊細な意匠からみても、女性のものだろう。古いもののようだが、手入れはされていて綺麗だった。

 トウカはそっと表面を撫でる。


「まじないの気配――、だからかな、懐かしい感じがする。これ、ウツギが使っているわけじゃなさそうだし、一体だれの――」

「それは俺の主様のものだ」


 振り向くとウツギが立っていた。水浴びをしたあとのようで、白い髪がしっとりと濡れている。彼の肩にのっていた黒犬のポチが駆けてくるのを手で受け止めながら、トウカは首を傾げる。

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