第2話 本の屋敷3
「どういうこと?」
眉を寄せるトウカに、アサヒは困った顔をした。
「いや、だって」
「なに?」
アサヒは気まずそうに目を泳がせる。嫌なこと思い出させたらごめんな、とちらりとトウカを見て、
「トウカってさ、あんまり人の世に馴染めなかったんだろう。このままあやかしの世にいたっていいんじゃないか? 俺はトウカがいてくれれば嬉しいし、トウカもその方が楽なんじゃないかな。ここではトウカのこと、その、気持ち悪いなんて言うやついないと思うし――。ここの生活は嫌いか?」
トウカは黙った。アサヒは純粋にトウカを心配しているらしかった。
「ずっとここに――」
ウツギの家で過ごす自分を想像してみた。ウツギやポチとともに過ごして、街でアサヒと遊んで、たまにシラバミにからかわれて――。
いや駄目だ、と首を振った。
「――駄目だよ。私にはおばあちゃんがいるから。今ごろきっと、私のことを心配してくれているだろうし。帰らなきゃ」
「そっか――、そうだよな。悪い、変なこと言って。ちょっと、その、トウカがいなくなるのは寂しいなって思っただけなんだ」
忘れてくれ、とアサヒは笑った。
「ありがとう、アサヒ」
トウカも笑った。自分がいなくなったら寂しいと思ってくれるのは素直に嬉しく、そして気恥ずかしかった。
もう少し本探してみるな、と作業に戻るアサヒを見ながら、トウカは考える。
たしかに、あやかしの世での生活は気が楽なのだ。自分を気持ち悪いと罵る人間もいない。ウツギもアサヒもよくしてくれている。ここでなら自分は普通でいられるような気がした。
――でも、帰らなきゃ。
祖母の顔が浮かんで、胸がきゅっと掴まれたような気がした。
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