第2話 本の屋敷2

 歴史書から物語、まじない書と、ここには様々な本がある。

 二人は無言で本を読み続けた。今朝の出来事のせいでトウカの心は鉛のように重かったが、目の前の文字を追っているとまだ気がまぎれて楽だった。

 暗くなると、ろうそくの灯りをもとに本を捲った。そうしていると、アサヒが唐突に「あ」と声を上げる。もうすっかり外は闇に染まっていた。


「これ。あんまり参考にはならないけど、ちょっとだけ書いてある」


 差し出された本をトウカものぞき込む。それはどこかのあやかしがつけた日記のようだった。私的な日記まで収集しているのかと驚きながら、文字を目で追った。


「えっと、あやかしの世に人が迷い込んだのは、自分の知る限り此度こたびと百年前の二度だけ――、そんなに珍しいことなんだ」

「日記の日付をみるに、此度っていうのは九〇年くらい前のことなんだな。そうすると、あやかしの世と人の世が繋がるのはほとんど百年周期になるのかな」

「百年――」


 トウカは呆然と呟いた。それ以外になにか書いていないだろうか、と続きを読んで、さらに目の前が暗くなる思いがした。


「迷い込んだ人間は人の世に帰ることもできずに、そのままあやかしの世で死んでしまった。――じゃあ、私もこのままずっとあやかしの世にいるかもしれないってこと?」

「あ――、でも、ほら、トウカ! ここに書いてあるぞ。道は偶然つながることもあれば、本当に望む者の前に現れることもあるのかもしれないって。帰りたいって願っていれば、いつか道も開くんじゃないか」


 アサヒが頬に汗を浮かべながらそう言った。


「でも、この二人は帰ることができなかったんでしょう」


 アサヒの気遣いは嬉しいものの、どうしてもトウカは笑うことができなかった。思考が悪い方向に落ちていく。自分は一生このままで、祖母にももう会うことは叶わないのだろうか。


「トウカってさ――、本当に人の世に帰りたいのか?」


 ふいにアサヒが呟いた。

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