第9話 花が咲く6

 濃い闇に包まれていた夜空に一瞬の火の花が咲いていた。鮮やかな光があたりを照らした。あやかしたちの顔がその光に照らされる。

 夜空では眩い光の粉が花の形に開いて、なにかが爆ぜる音が地を揺らす。

 一瞬の光と音。そしてそのあとには、しんとした静寂に包まれた。


「なに――?」

「空の、花だ」


 だれかが呟いた。あやかしたちは呆然と夜空を見つめる。

 間をおいて、光の筋が空高くのびていくのが見えた。

 そうして、また夜空に花が咲いた。赤、青、緑、黄――、次々と花が開く。

光の粉が夜空いっぱいに広がり、きらきらと落ちてくる。ぱん、ぱん、ぱん、と爆ぜる音も続いて、地を揺らし、空気を震わせた。橙の大きな花はぱっと広がり、光の筋が柳のように垂れて降ってくる。光が消える間際には、ぱちぱちと小さな光が飛び散った。


「すごい」


 夢うつつにだれかが吐息をもらした。

 空には絶え間なく花が咲き続ける。あやかしたちは口を開けて、空に広がる光の花にとらわれている。全員の視線が空に注がれていた。


「アオヒメへの贈りものは、これくらい珍しく、華やかでなくてはな。今宵の夜空、アオヒメのために捧げようぞ。受け取っておくれ。ヒメのための空の花を」


 金持ちそうな金髪のあやかしが、扇を口元にあてて誇らしそうに笑っていた。

 今やあやかしたちの目は夜空の花へと向けられている。花が開き、その光が地上を色とりどりに照らし出す。不思議な光景だった。


「あ」


 ふいにアサヒに掴まれていたトウカの腕が強く握られた。他のあやかしと同じように空の花に魅了されていたトウカははっとして、アサヒを見る。


 彼は――、空なんて目に入っていない様子で、ただアオヒメだけを瞳に映していた。

 アオヒメもそうだ。他のなにものも視界に入れず、アサヒのことだけを見ている。二人の世界には今、自分たちだけしかいないのだ。他のことなんて存在しないも同じ。腕を掴まれてこそいるが、きっとアサヒはトウカの存在を意識していない。

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