第9話 花が咲く1
今日はアオヒメが椿をまとう披露目の日。いつものように朔の日、というわけではなく、望月が夜空に浮かんでいる。
「もっと肩の力を抜いたらどうだ。見ているだけでこっちまで苦しくなる」
ウツギがため息をついた。トウカはちらりとウツギの横顔を盗み見る。白い髪からのぞく金の瞳はいつもと同じように静かな色をしていた。
アサヒに薬の話を聞いて以来、何度かウツギに尋ねてみようとしたが結局それは叶わずにいた。それを聞いてしまえば、もうあとには引けない気がしたのだ。今の関係を壊してしまうのは怖かった。
「やあやあ、いい夜だねえ。皆さんお揃いで、ごきげんいかが?」
ふいに楽しそうな声がして、菫色の髪をしたシラバミが手を振って現れた。あやかしたちで賑わっているはずなのに、器用にすき間をぬってトウカたちのもとに歩み寄る。
「それにしても、すごいあやかしの数だね。まるでお祭りだ。楽しいねえ。おや、アサヒくんどうしたんだい。そんな倒れそうな顔をして。トウカちゃんも心ここにあらずって感じだね」
トウカの心臓が跳ねた。それはアサヒも同じようで、二人して顔を見合わせて曖昧に笑う。シラバミは愉快そうに口角を釣り上げた。
そのとき、笛の音が鳴った。冷たい夜空に澄んだ音色はよく響く。
「始まるね」
「うん」
トウカは頭を振って余計な感情を振り払った。今はただ、アサヒに付き添うことだけを考えよう。ウツギのことは後回しだ。
あやかしたちはたまゆら堂の三階を見上げた。
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