第9話 花が咲く2
笛の音色が響く。しゃんと鈴の音も加わった。その場の空気が一変する。一切の不浄が取り除かれて、神聖な気配が漂ったようだった。息を吸えば凍てつくほどの冷たい空気が胸を膨らませる。
地に集うあやかしすべての視線が注がれて、ゆっくりゆっくりと襖が開いた。
中からアオヒメが現れる。
ほうと群集は息をもらした。
微笑をたたえた美しい顔。朱に縁取られた瞳。白、桃、翠、橙、そして黒の着物を重ねた姿。一番上の黒い着物には金の波模様の刺繡が施され、朱色の椿が艶やかに咲いていた。たまゆら堂の中での身分を示す花の柄だ。この夜より、アオヒメは椿を羽織る。
アオヒメは涼やかな目で、階下のあやかしたちを見下ろした。
「なんと美しいことか。流石は我らがアオヒメ。よきかなよきかな」
ため息のような小さな囁きが聞こえた。何度かたまゆら堂で見かけた金髪の金持ちそうなあやかしが、扇を口元に添えて微笑んでいる。
「綺麗」
「うん――。本当に綺麗だ」
アサヒは笑った。眩しそうに、そしてわずかに悲しそうな色を瞳にたたえていた。自分を置いてアオヒメが遠くに行ってしまうと感じているのだろうか、とトウカも眉を寄せる。自分が置いて行かれることの寂しさは、トウカにも分かるのだ。
それでも、トウカたちがなにを思おうと、アオヒメが美しいことに変わりはない。
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