第3話 鍵師の少年5

「昔って、あの子と知り合いなの?」

「まあ」


 アサヒが頷いたとき、後ろからトウカを呼ぶ声がした。振り向くといつもの青鈍色の羽織をかけたウツギがいた。肩には黒犬のポチものっている。


「雨が降りそうだから、迎えにきた」


 言われて空を見れば、遠くからどんよりとした雲が流れてきているのが見える。アサヒも空をみて嫌そうな顔をした。


「俺、まだ次の仕事が残っているんだ。行ってくる」


 そう言うと、身軽に通りを走っていき、その姿は見えなくなった。


「あいつ、たまゆら堂にいたやつか」

「うん。鍵師なんだって。いい子だったよ」


 ウツギは横目でトウカをみて、「あやかしのこと、嫌いなんじゃないのか」と言う。

 何度目かの言葉だった。それを言われてしまうとトウカは返事がしにくくて目をそらす。だがそっと顔を上げて、ウツギを見た。


「あやかしのことは苦手だけど、でも、いいあやかしがたくさんいることも分かっているの。そういうあやかしまで遠ざけるのはもったいないかなって、そう思って」


 ゆっくり言葉を紡げば、自分の中でもすとんと腑に落ちた気がした。

 人の世での仕打ちのせいで、まだあやかしのことは苦手だ。でも、すべてのあやかしを拒絶したいわけではない。

 ウツギはわずかに眉を寄せてトウカを見た。


 ――あ、まただ。


 思い詰めたような顔をする。トウカにはその表情の意味がいまだに分からない。


(第四章 第3話「鍵師の少年」 了)

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