第5話 空の木1

 鳥居階段にウツギもついてきてくれたが、その日も得るものはなかった。それに一緒に来てくれたのはいいが、ウツギがまとう空気は冷たく重い。好意で来てくれたというよりも、まるで監視をされているような気分だった。こんなことなら一人の方が気楽だったとトウカは思う。


 とぼとぼと夕暮れの街を歩いて、いつもの場所で白い花びらを見つけると前を行くウツギを呼び止めた。


「いつもここで話をするあやかしがいるの。今日も彼女、待っていると思うから行ってもいい?」

「お前、あやかしが嫌いなんじゃなかったのか?」


 ウツギは怪訝そうな顔をした。やはりウツギの言葉には端々に棘がある。トウカはなにも答えられなかった。

 座敷の戸をあけて中に入ると、牡丹色の着物を着た少女、ヒサゴが笑顔で出迎えた。あら、と彼女が首を傾げると首の枷と鎖が金属特有の音を立てる。


「今日は他のお客様もいるのね。あなたは?」

「ウツギという。わけあって今トウカを預かっているんだ。彼女が世話になっているようだな」

「いいえ、私、トウカとお話ができて楽しいの。お世話になっているのはこちらだわ」


 まるで保護者のようなことを言うウツギにトウカは恥ずかしくなった。ヒサゴはといえば、なにやら考え込むようにウツギを見つめて、


「素敵な名前ね。ウツギって春の花の名でしょう。似合っているわ」と微笑んだ。


 ウツギは目を瞬いてから、「よく知っているな」と感心したように言う。一人だけ会話に取り残されたトウカが首を傾げたため、ヒサゴが説明を加えた。


うつろの木と書いて、ウツギと読むの。春に白いお花を咲かせるのだけど――そうね、卯の花といえば分かるかしら」

「あ、それなら。ウツギって卯の花のことだったんだ」

「白い髪をもつ彼にはお似合いのお花ね」


 ウツギは恥ずかしそうに目を伏せた。彼にしては珍しい顔だなと思いながら、トウカはふと気になっていたことを思い出す。

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