第4話 忠告4

 不愉快そうな顔をしながらも、ウツギの手によって卓上に料理が並べられる。トウカの前にもご飯やみそ汁が置かれた。


「美味しそうだねえ。それでは皆さんお手を合わせて、いただきます」

「なんでバミさんが仕切ってるんだ」


 笑顔のシラバミと、不愉快そうなウツギが食事を始める。トウカは戸惑って箸をとることができずにいた。


「トウカ、食べろ」

「うん――」


 念を押されてしまって、渋々箸をもつ。本当に食べてもいいのだろうかと思いながらも、ご飯を口に運ぶ。


「美味しい」


 ずっと山菜のおひたしばかりだったのだ。米を食べるのは久しぶりで、一粒一粒の甘さが身に染みた。

 トウカは最初遠慮がちに箸をつけていたが、その美味しさに手が止まらなかった。久しぶりのまともな食事ということもあるが、ウツギの作るご飯は美味しいのだ。トウカが作るご飯よりも美味しい。


 すっかり朝餉を平らげて串団子も食べ終わったころ、シラバミはふらっと立ち上がると「ごちそうさまー」と帰っていった。


「今日も鳥居階段に行くのか? 行くなら、俺もついていく。今日は暇だし」


 トウカは驚きつつ、頷いた。ウツギは相変わらずトウカの方を見ない。


 ――ウツギが私を殺すかもしれない。


 シラバミの言っていた言葉を思い出した。殺されるなんて、シラバミのことだから冗談だろうと思ったが、妙に心にひっかかるのだ。それに自分がウツギのことを信用しすぎているということも自覚していた。

 まだ彼と会って日も浅い。なのになぜか、トウカはウツギのことを怖いと思えなかった。


「ああ、そうだ。トウカの祖母が作ったというお守り、今も身に着けているだろう。あのお守りは部屋に置いていけ」

「どうして?」

「あやかしの世で人の匂いだけを漂わせていたら、妙なものに絡まれることもあるかもしれないからな。お前の中のあやかしの気配は――、ここではお前を目立たせなくしてくれるはずだ。だから置いていけ」


 トウカは衿からお守りを取り出すと、ぎゅっと握った。気配を消してくれるお守りだからという理由だけで、肌身離さず持っていたわけじゃない。これを持っていると、祖母のぬくもりを感じられて安心するのだ。できることなら、ずっと持っていたい。

 けれど、ウツギの言うことも分からないわけではなかった。

 トウカは渋々うなずいた。


(第三章 第4話「忠告」 了)

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