第3話 眠るあやかし2

「そんな瞳しているし、あやかしの気配もするし。なんなんだ、お前。普通の人間じゃないのか」

「痛いよ、ウツギ」


 掴まれた腕が痛い。あまりにも困惑したウツギの様子に、トウカの方でも驚いていた。「放して」と訴えてみるが、聞き入れられることはない。

 このところウツギはトウカに対して冷たかった。菫色の髪をしたシラバミが来て以来、ずっと重い空気が立ち込めていたのだ。そうして積もった感情が今爆ぜたように思えた。

 トウカはなにも言えず、息苦しい時間が流れた。


「――いろいろ、隠していたことはごめん。ちゃんと話すから、だからお守りは返して。大事なものなの」


 トウカはやっとの思いでそれだけを伝えた。ウツギは眉を寄せていたが手を放して、お守りをトウカに渡す。ポチが不安そうに二人を交互に見ていたが、その頭を撫でる者はいなかった。

 トウカはお守りを両手で包んで胸に抱く。祖母のくれたお守りはいつだってトウカの心を落ち着かせてくれた。


 自分にとって気分のいい話ではない。それでも話さなければウツギは納得しないだろう。トウカは静かに息を吸った。


「これは、おばあちゃんが作ってくれたお守り。私のおばあちゃんはまじない師だから」

「まじない師――。お前も、そうなのか」


 ウツギは眉を寄せて硬い声でそう言った。


「うん。私はまだ見習いだけど。それで、私は――」


 トウカは一度言葉を止める。深呼吸をして、切り出した。


「私は――、普通の人間じゃないの。生まれたときから、体にあやかしの気配が混じっていた。父さんも母さんも普通の人間だったのに、私だけおかしくて」


 ちらちらと揺れるろうそくの灯りを見ていると、祖母の声が頭によみがえった。


 ――トウカ、このお守りは肌身離さず持っていなさいね。あなたの中のあやかしの気配を隠してくれるお守りよ。あなたが自分に自信をもってその気配を受け入れられるまで、このお守りを使いなさい。


 トウカはずっとそのときのお守りを身に着けている。


「私の中に、あやかしがいるみたいなの。ほとんど妖力はなくて、ずっと眠っているけど」


 ウツギが息をのんだのが分かった。トウカは目元に手を添える。白くて不可解な自分の目。

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