第3話 眠るあやかし1
鎖の少女、ヒサゴは不思議なあやかしだった。彼女の声は、心にすっと入り込んでくる。トウカはふわふわした心もちで家に帰った。
待っていたウツギと黒犬ポチとともに
体の水気をふき取り、寝巻を着る。手ぬぐいを肩にかけたまま自室に戻ると、そこにはポチがいた。尻尾を振る様子を見るに、遊んでほしいのだろうと思って、
「待ってねポチ。髪だけ乾かすから」
手ぬぐいで髪から垂れるしずくをぬぐっていたとき、ぽとりと音がして首からなにかが落ちた。
赤い布地に桜が描かれた布で作られた、小さな巾着。トウカが祖母からもらったお守りだ。いつも首にかけている紐が千切れたらしい。
「おばあちゃん――」
トウカはお守りを拾おうとした。だが、それより前にポチがお守りをくわえた。あ、と言っている間に小さな黒犬は部屋を飛び出していく。
「待って、ポチ!」
思わず悲鳴にも似た声が出た。トウカの頭に祖母の言葉がよみがえる。肌身離さず持っていなさい、とこのお守りを渡されたときに言われたのだ。
「ポチ!」
もう日が落ちた廊下は暗い。灯りをもたずに飛び出したから、頼りなのはかすかな月明かりだけ。それでもバタバタと足音を立てながら追いかけると、ろうそくを持ったウツギの後ろ姿が見えた。ポチはウツギの背に飛びつく。珍しいものがあるから見て、と言うようにウツギにお守りを見せつけるポチにトウカは息をついた。
「ウツギ、そのお守り返して」
「――なんで」
「え?」
お守りに手を伸ばしたとき、ウツギが小さく呟いた。不思議に思った刹那、伸ばした手はウツギに掴まれていた。トウカは目を丸める。トウカを射抜くウツギの瞳には動揺がにじんでいて、息をのんだ。
「なんで」
「――ウツギ?」
「なんで、お前からあやかしの気配がするんだ。お前、ただの人間なんじゃないのか」
戸惑うような声にトウカは肩を揺らした。白い髪の間からのぞく瞳がトウカを真っ直ぐに見据えている。目をそらそうとするが、頬をウツギに掴まれてしまう。
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