第2話 少女の隠し事1

 知人のもとを訪ねて昼には帰ると言っていたウツギは、夕方になってようやく帰ってきた。トウカはその帰宅をポチが尻尾をぶんぶん振って落ち着きがなくなったことで知った。行こうと誘うようにポチが髪を噛んで引っ張るから、仕方なく立ち上がって玄関に向かう。


「お帰りなさい。――ウツギさん、疲れていますか?」

「ただいま。まあ、ちょっとな」


 ウツギは白い髪をかき上げながらため息をついた。朝よりも疲弊している様子だ。


「なんていうか、あいつと話していると疲れるんだ。ったく、昼には帰るって言ったのにこんな時間になっているし」

「はあ」

「――お前のことを相談しに行っていたんだ。あいつならなにか人の世に帰る手立てを知っているかとも思ったんだが、収穫はなかった。むしろお前のことを根掘り葉掘り聞かれた。普通の弱そうな人間だって言っておいたが――そういえば、お前」


 ウツギはトウカの顔を探るようにじっと見た。白い髪から金の瞳がのぞく。それに気づくとトウカはうつむいた。首筋を嫌な汗が伝う。顔を見られるのは苦手だった。


「――夕餉ゆうげの準備、手伝います」


 ウツギがなにかを言う前に、トウカは背を向けてそう言った。ウツギは眉をひそめたが、そうだなと頷く。


「あ、トウカ」

「はい」

「今さらだけど、敬語はいらない。呼び捨てでいいし。あんまり遠慮されるとこっちも疲れる」

「はあ。分かりまし――、分かった」


 ウツギはわずかに口角をあげて微笑むと勝手場に向かう。トウカはそれを追いかけながら、胸元をおさえた。小さな感触がある。着物の下にある祖母からもらったお守りだった。

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