第6話 生徒会①
八尋があかりを男子生徒たちから助けた翌日。
恭平とあかりに誘われ、八尋は食堂で昼食をとることになった。
三人で食堂に向かって歩いていると、八尋は違和感を感じていた。誰かに見られているような気がして、八尋は廊下を歩いているはずがどこか落ち着かなかった。
「なんか、誰かに見られてる気がする……」
「そりゃあ桃園さんといるんだから、当たり前だろ」
「なるほど……」
恭平の言うことも当然で、あかりは入学式の新入生代表とその容姿から、早くも学年のアイドルとして認知されていた。
そして、恭平は中学時代からその性格のおかげで、先輩後輩男女問わず周りからの信頼が厚い。
だからこそ、そんな二人といる人間はいったい誰なんだという好奇心の目が八尋に向けられていた。
「たぶん昨日のこともあるよな……」
「まぁ、八尋のせいだからな」
「だからあれは違うって……」
昨日八尋とあかりが一緒にいたことは、内部進学生に目撃され盛大に勘違いされ、そのままあらぬ噂が一人歩きしていた。
そのため、八尋は入学三日目にして、新入生の中でもそれなりに有名人になっていた。
「一人ひとり誤解を解きたい……」
「大丈夫だよ。人の噂も七十五日って言うから」
「これが夏まで続くのはしんどいかも……」
周りから見られることに慣れているのか、特に気にしていなさそうな二人の様子を見て、「俺は二人みたいになれない……」と八尋は心から二人を尊敬した。
食堂に着くと、すでに授業を終えた生徒たちであふれかえっていた。
いい場所はないかと探していると、日当たりのいい四人がけのテラス席が空いており、八尋たちはそこで昼食をとることにした。
八尋は昨日食べ損ねた学食を食べたいということで、一番人気の醤油ラーメン、恭平は日替わり定食、あかりは持参していたお弁当を用意し、それぞれ昼食を食べ始める。
「桃園さんのサンドイッチ、美味しそうだね」
「ママが作ってくれたの。私とパパとお兄ちゃんの分を毎日はりきって作ってくれるんだ」
そう言うあかりのお弁当は、レタスが丁寧に敷き詰められ、その上にベーコンレタスサンドとたまごサンドが交互に並んでいた。
その横には、ピックに刺さったプチトマトとフルーツが飾られ、よりお弁当の鮮やかさを演出していた。
毎日三人分のお弁当を用意する細かさとお弁当の可愛さから、あかりの母親はきっと絵に描いたような母親なんだろうと八尋はなんとなく想像する。
その横で、恭平が定食のおかずを口に入れながら八尋を見る。
「てか、八尋も紫筑先輩に二日連続で会ったなんて、なかなかすげぇよな」
「偶然だけどね。それより、紫筑先輩って二年生なのに副会長だし、異能力を使いこなしてるし、よく考えたらすごいよね」
「あー、先輩がすげぇのは知ってるんだけど、いろんな噂があるから俺は直接関わるのはぶっちゃけ怖いんだよな」
「噂?」
八尋が尋ねると恭平は箸を置いて眉をひそめ、わざとらしくせき払いをする。
その雰囲気から、どうせ本気ではないだろうと八尋は話半分に恭平の話を聞いていた。
「よく聞けよ。入学式に喧嘩売ってきた奴をボコボコにしたとか、コネで中等部から生徒会入りは決まってたとか、他校の男に貢がせてるとか、実はもう守護者になってて俺らの監視してるとか……考えるだけでこえーって!」
「どうせそんな内容だとは思ってたけど、それは信じる人いないだろ」
「半分本当かもしれないだろ!」
そんなことだろうと思った、と八尋は呆れながらラーメンをすする。
「でも、入学式に喧嘩したって噂は本当みたい。あの模擬戦の後に起こったって」
「紫筑先輩だし、ちょっとは許されてるんじゃね? 月城って成績いい奴には割と優しいし」
エリナは威圧感や態度で誤解する人も多いような気はしたが、普通に会話もしていたし、恭平が言うほどではないと八尋は思い返す。
今の自分のように、噂だけが一人歩きしている状態なんだろうと八尋は推測した。
「それより、俺は桃園さんが無事でとにかく安心した!」
「ううん、心配かけてごめんね」
「桃園さんが無事だったのも、八尋がスマホを忘れたおかげだな」
あかりはうんうんとうなずく。
昨日のことはもう気にしていない様子のあかりは、サンドイッチを一口食べ、思い出したように八尋に言う。
「そうだ、赤坂くん。カフェに行くのは土曜日でもいいかな?」
「あ、うん。俺はなにも予定ないから大丈夫」
「待って。カフェってなに」
まさかこのタイミングでお礼の話をされるとは思っておらず、八尋は一瞬返事が遅れる。
八尋は昨日、恭平にあかりを助けた経緯は話していたが、お礼の話を出せばなにを言われるか分かったものではないため、その話はしていなかった。
そして案の定、その会話を聞き逃さなかった恭平の箸を進める手が止まる。
背後にメラメラと炎が燃えているかのような雰囲気で八尋をにらみつける恭平に、八尋はたじろぐ。
「えっと、桃園さんが昨日のお礼に駅前のカフェに行こうって……」
「聞いてない」
「そりゃ言ってないから……」
「なんだよそれ! 八尋だけずるい! うらやましい!」
「うらやましいって……恭平はいなかっただろ」
八尋につかみかかる勢いで言う恭平は、誰が見ても嫉妬していると分かり、その態度に八尋は困惑する。
本人を目の前にしてなぜそんなにあれこれ言えるのか。分かりやすいと気にしていた入学式の日はなんだったのかと、入学式の恭平を思い出す。
「会って三日は早い!」
「どういうことだよ。それなら恭平も今度桃園さんと行けばいいだろ」
「そういうことじゃねぇんだよ!」
二人が不毛な言い争いを続けていると、それを見ていたあかりから思わぬ提案をされる。
「そしたら、三人で行く?」
「「え?」」
あかりの言葉に八尋と恭平は固まり、あかりは楽しそうに話を続ける。
「橙野くんも行きたいなら一緒に行こうよ。甘いもの好き?」
「超好き! いいの!?」
「もちろん。三人で行った方がもっと楽しいよね」
あかりが嬉しそうに笑うと、恭平は拳を天に突き上げる。
二人で会うということはもしかして、という昨日から抱いていた八尋の淡い期待は、その瞬間にあっさりと崩れ落ちた。
恭平は立ち上がったまま、残念だったなと言わんばかりのにやけた顔で八尋を見る。
そのにやけた顔に八尋は思わず手が出そうになるが、悔しくないと自分言い聞かせ、ぐっと拳を押さえる。
あかりは優しいから恭平も誘ったのであって、決して可能性がゼロになったわけではない。泣きたい気持ちを抑え、八尋は必死に自分に言い聞かせた。
その横で、恭平はデレデレとした隠しきれない笑顔であかりに話しかける。
「二人はどこのカフェ行こうとしてたの?」
「駅前のところにあるお店だよ。季節のケーキもあったりして、それに内装も素敵なの」
あかりはスマホで検索し、店のホームページを八尋たちに見せる。
そこには定番のショートケーキやチーズケーキ、モンブランやタルト、ロールケーキなど簡単にスクロールしただけでも十を超える写真がずらりと並んでいた。
それは甘党の八尋の心をしっかりと掴んでおり、昼食を食べていても思わず手が伸びそうなくらいだった。
「俺はそこのフルーツタルトが甘すぎなくておすすめだな」
後ろから声をかけられて八尋たちは振り返る。
そこにいたのは、長髪をポニーテールにまとめた男子生徒だった。
八尋はその男子生徒が誰なのかよく覚えており、入学式のときに堅苦しくないスピーチで新入生を和ませていた、月城学園高等部の生徒会長だった。
「うっす、
「お、橙野か。ようやくお前も高等部来たな」
恭平は親しげに生徒会長と挨拶を交わす。
顔が広いのは聞いていたがまさか生徒会長と知り合いなんて、と八尋が感心していると、中等部と高等部の合同授業のときに一緒に受けたと恭平が八尋に教えてくれた。
「こいつ、俺の幼馴染で高等部から入学したんすよ」
「赤坂八尋です。えっと、入学式のスピーチ面白かったです!」
「ありがとな。俺は生徒会長の
「緑橋先輩、入学式ぶりです」
「桃園も代表挨拶お疲れ」
フランクな話し方と接し方から、おそらく気さくでいい人なんだろうと八尋は誠にそんな印象を抱いた。
誠は誰も座っていない席に腰かけて話を続ける。
「今年の新入生、面白い奴が多いって三年で話題になってるぞ」
「そうなんすか?」
「まず桃園が新入生代表だろ。あとはいつもの模擬戦で、紫筑が新入生に絡んだっていうのも聞いたな」
「先輩、紫筑先輩に絡まれたっていうのこいつっす」
恭平の言葉に、誠が驚いて八尋を見る。
エリナが絡んだのはこんな平凡な奴だったんです、と八尋は心の中で返事をする。
そして、恭平が定食の味噌汁を飲み干したところで誠に尋ねた。
「てか先輩、俺らになんか用事っすか?」
「そうそう、忘れるところだった。桃園、生徒会に入ってくれないか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます