第4話 歩一歩①
「おはよう恭平」
「おはー」
翌日。
八尋は駅で恭平と待ち合わせて登校していた。
電車内は朝のピーク時間の割にそこまで混んでおらず、八尋は恭平が昨日SNSに載せていた動画の話題を振る。
「恭平、昨日は家族でご飯行ったんだな」
「そーそー。あのあと入学祝いでちょっといいとこに飯食いに行ってさ。しかもめっちゃ美味かった」
それで
画面の中では、恭平の妹である寧々が食事を楽しんでおり、そのかわいさに思わず八尋の顔がゆるむ。
「このあと寧々は全然寝ないし、ようやく寝たと思ったら親の飲み会に炭酸で付き合わされてさ。おかげで寝不足だっての」
吊り革にもたれながら、恭平は大きなあくびをする。
それから月城学園に着き、恭平と別れて八尋は教室に入る。
それなりに早い時間に到着したが、すでに何人かのクラスメイトが席に座っていた。
入学式ではクラスごとに振り分けられた席に座っただけで、どこかに集まって顔を合わせたわけでもない。
そのため、八尋がちゃんとクラスメイトに会うのは今日が初めてだった。
出席番号順ならきっと一番前だろうと、八尋は黒板に貼られていた座席表を確認する。
予想通り一番前の席だった八尋が自分の席につくと、八尋の後ろに座っていた男子生徒が八尋に声をかける。
「俺、
「俺は赤坂八尋。よろしく」
優征は八尋から見て、大人しそうという第一印象を受けた。
だが知らない人に物おじせず話しかけるあたり、人見知りはしないタイプなんだろうと八尋は考える。
すると優征とは別の方向から声をかけられ、八尋は声の方に体を向ける。
「やっぱり赤坂だ。久しぶり」
「
「おう。お前も月城受けてたんだな」
八尋に声をかけたのは、
「えっと、二人は知り合い?」
「そうそう。俺と赤坂は同じ中学。俺、深川柳。よろしく」
「俺は海老名優征。よろしくね」
柳は八尋の隣の席の椅子を借りて座る。
「俺だけだと思ってたから、赤坂の名前見てびっくりしたよ」
「幼馴染が中等部から通ってて、受けたらって勧められたんだよ」
「なるほどな。それで受かるんだから、赤坂って異能力ちゃんと使えるんだな」
それから、八尋たちは自分の異能力はなんだとか、中学時代の部活の話や好きな音楽などで盛り上がった。
ひと通り話が盛り上がったところでチャイムが鳴り、柳は自分の席に戻っていく。
すると、眼鏡をかけ、スーツを着た細身の男性が教室に入ってきた。
「はじめまして。これから一年間、君たちの担任になる
八尋から見た根岸の第一印象は優しそう、だった。
その八尋の予想は当たっており、学園内でも温厚な教師として一、二を争うと、あとから恭平から教えてもらった。
そして月城学園の教師は座学・実技を問わず、全員が守護者の資格を持っている。
そんな手厚い教師陣がきちんと授業を教えている。それが月城学園が信頼される理由のひとつになっていた。
「君たちは高等部からの入学なので、中等部から進学した子に比べて、授業についていけるのかと心配するかもしれません。でも、自分の努力次第でいくらでも上に進むことはできます。ぜひ、自分の力を信じて学校生活を楽しんでください」
将来なるであろう守護者の先輩として、一人の教師として、一人の人間として、重みのある言葉が八尋たちに向けられる。
その言葉が刺さったのか、八尋を含めたクラス全員の心をしっかりと掴んでいた。
「それでは、苦手な人もいるかもしれませんが、まずは自己紹介ですね。名前と出身中学、将来の夢やなにか一言あれば。じゃあ、一番の赤坂くんからお願いします」
昔から出席番号が一番になることが多かった八尋は、これからの自己紹介の基準になるために、あたりさわりのない自己紹介をする。
それから順調に自己紹介は進み、ムードメーカーになるであろう生徒、リーダーになりそうな生徒などが自己紹介でなんとなく判断できた。
そして、八尋の予想に反して、クラスメイトの半数以上はどんな守護者になるか明確に決めている者が多かった。
守護者という職業は安定したものではないが、同時に憧れる者は多い。
世間一般では、守護者は犯罪組織の取り締まりや警護、国の防衛といった警察と軍の中間のような活動をする職業として認知されている。
それだけではなく、直接警察や軍にある部署やチームに入り、その異能力を活かして活動する場合もある。
諸外国では国力として掲げられる守護者、最前で戦う兵士のような守護者などもいるが、日本ではあくまで国の平和のために存在する職業である。
(守護者を目指すための高校だし、それもこれから考えればいいよな……)
八尋が月城学園の受験を決めたのは、恭平が強く勧めてきたのが一番の理由だった。
それ以外にも、八尋の異能力である銃を扱う者はそこそこ珍しく、守護者になれば活躍できると、中学時代の担任に言われたのも理由のひとつだった。
そして、八尋の父である透も守護者であり、その背中を見てきた八尋は、自分も将来は守護者になるだろうとぼんやり考えていたのもある。
だが、クラスメイトの自己紹介を聞いていると、いかに自分の目標が
そんなことを考えているうちに、いつの間にかクラス全員の自己紹介が終わっていた。
ホームルームのあとは学校案内を兼ねたオリエンテーションと、これから受ける授業の簡単な説明を受け、午前の授業は無事に終了した。
「赤坂、学食行く?」
「ごめん、ちょっと用事あるから先食べてて」
「おっけー。席取っとくわ」
柳と優征に昼食に誘われたが、八尋は断って教室を出る。
八尋が道を思い出しながら向かったのは、実技棟の二階にある講義室だった。
オリエンテーションをこの教室で行っていたが、八尋はスマホを机の中に忘れていた。
さいわい講義室は施錠されておらず、座っていた机を確認すると、八尋のスマホはなにも変わらずそこにあった。
「あ、恭平から連絡来てる」
スマホを確認すると、恭平から学食に行かないかといった内容のメッセージが届いていた。
『ごめん今見た。今日はクラスメイトと食べるから明日行こう』
返事を送ると、恭平もスマホを見ていたのか、すぐに返事が返ってきた。
『まじ? 桃園さんにも断られたしつらい……じゃあ明日は食堂行くか』
と、泣いている絵文字とともにそんなメッセージが返ってきた。
柳と優征が席を取っておいているし、早く合流しようと八尋は階段を降りる。
すると、実技棟の裏で数名の男子生徒がたむろしているのを八尋は見つける。
(入学式のときにいた先輩もそうだけど、思ったより不良っぽい人も多いんだな……)
できるだけ面倒ごとには関わらないようにしようと、八尋はそそくさと実技棟を出ていく。
しかし、思わず聞こえてしまった言葉に八尋は足を止める。
「来たきた。桃園あかりちゃんだよね?」
まさかその名前が呼ばれるとは思っておらず、八尋は気づかれないようのぞき込む。
あかりは男子生徒たちと話していたが、その雰囲気から男子生徒たちとは知り合いではないようだった。
男子生徒から嫌な予感がした八尋は、物陰からその様子を見守る。
「桃園さん、まじで可愛いねー。アイドルやってたりする?」
「いえ、やっていません」
「俺がプロデューサーだったら絶対スカウトするのになー」
「そうですか」
これが告白だったら気に留めなかったが、今の状況は誰がどう見ても、後輩が先輩に絡まれている光景にしか見えなかった。
そしてあかりもいい気分ではないのか、反応はそっけなく、昨日八尋たちと話していたときとは遥かに差があった。
「あかりちゃんって彼氏いる? いなかったら立候補しちゃおうかな」
「いいえ、こちらからお断りさせていただきます」
「ぶはっ! お前フラれてやんの!」
「……すみません、それだけでしたら失礼します」
あかりは立ち去ろうとするが、男子生徒の一人に手首を掴まれてその場に引き留められる。
「……離してください」
「つれないこと言うなって。俺らはもう少し話したいんだからさぁ」
「まだお昼ご飯を食べてないので戻ります」
「じゃあ俺らと食べようよ」
あかりの嫌がる反応が楽しいのか、手首を掴んだまま男子生徒は絡み続ける。
我慢の限界を迎えた八尋は、あかりを助けようと向かおうとする。
だが、背後から声をかけられたせいで八尋の足が止まる。
「あんた、なにしてんの?」
八尋の背後に立っていたのは、昨日八尋に模擬戦を挑んだ、紫筑エリナだった。
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