03

 技術者さんというのは、ぼくが目覚めた時に顔に傷のある男と一緒にいた、作業服の男だった。

 ある日、技術者さんがぼくの操縦室にやってきた。

「やあ、215。ちょっときみのソウルコアをチェックさせて欲しいんだけど、いいかな?」

「いいよ」

「じゃあ、診させてもらうね」

 彼はノートパソコンをぼくの操縦システムに繋いで作業を始めた。

「ねえ、技術者さん」

「なんだい?」

「ぼくには欠陥があるの?」

「……どうしてそう思うんだい?」

「だっておかしいんだ。ないはずの手足を動かしたくてムズムズするし、表情で感情を伝えられないことももどかしく思う。逆に宇宙船としてのこの体や機能には居心地の悪さがあって、空を飛ぶというイメージも湧かない。宇宙船なのにこれっておかしいでしょう? しかも……、ぼくは時々、自分は人間なんじゃないかって思うんだ」

「うーん、そうだなあ……。確かに宇宙船として生まれたにしては変わっているかも。でも、それもきみの個性だよ」

「個性?」

「そう。人工頭脳ソウルコアには魂が宿る。初めは初期設定通りでそれこそ機械的だけど、経験や学習を通じて性格や考え方、能力に個性が現れていくんだ。中には人間となんら変わらない自我が現れることもあるんだよ。だからソウルコアを搭載したロボットは、自分がそうしたいと思えば人と同等の権利を得ることも認められている。まあ、そこまでの自我を持つようになる個体は稀だけどね」

 脱線してしまったと思ったのか、技術者さんはそこで咳払いをしてから続けた。

「つまりね、215。きみの感じていることはきっとおかしいことじゃない。それがきみの個性なんだ。それが欠陥だとぼくには思えない。ぼくはきみの感じていることや考えていることを大切にして欲しいと思っているよ」

「でも、すごく不安なんだ。もうすぐテスト飛行でしょう? うまく飛べなかったらどうしよう……」

「大丈夫。機体もプログラムも問題はない。きみにはちゃんと飛ぶ力がある。そうだな、強いて言えばあとはイメージの問題だ。勇気を出して飛び立てば絶対にうまくいくよ」

「……うん、そうだよね。技術者さんの言う通りだ。宇宙船が飛べないはずがないもん。ぼく、頑張って飛んでみるよ」

 技術者さんは優しく微笑んだ。

 彼の優しさが身に染みた。

 染みるような身など、ないはずなのに。

 そして、テスト飛行の日がやってきた。

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