4話 俺の能力は……

「っおえ……」


 酷い嘔吐感と、眩暈のなか目を覚ます。


 揺れる視界の中では慣れたフローリングの床と洗面台があり、同時に自分が突然激痛に襲われたことを思い出す。


 そして、恐らくは意識を失った原因だろうThird eyeというアプリについても……。


 ふと時計を見てみれば、時刻は9:45。


 意識を失う前から、およそ15分ほどしか経っていなかったことを確認する。

 

 洗面台も近かったので取り敢えずその場で顔を洗い、取り落としたスマホを持って居間へ移動しながら画面を確認すると、竜がまとわりついたThird eyeというロゴと共に、entryボタンが表示されていた。


 しかもentryボタンの上にはご丁寧に、「ようこそ、佐藤 武様」と俺の本名が記載されている。


 スマホの利用者の名前を端末の中から吸い出したのか知らないが、悪意が有る様に思えてならず、一瞬ボタンを押すのを躊躇するが、すぐに自嘲した。


「ここで引き下がってもしょうがないだろ」


 そう苦笑いしながらentryボタンを押すと、先ほどの様な眩暈に襲われる事も無く、player nameの入力欄が表示される。


 まるでゲームみたいだなと思いながら、普段から使用している「U1」と入力すると、突然画面の文字が崩れ始めた。


 まさか形態がバグったか? そう思って電源を切ろうとした所で、正常な画面に戻ると共にProfileという欄が表示され――思わず首を捻る。


 Player nameは設定した通り入力されており、Player Levelが1なのは良いのだが、その下にあるabilityという項目が文字化けして見えない状態になっていた。


「やっぱり再起動するか……」


 そう言って電源ボタンを押そうとした所で――画面が突然光り出した。


「なんだっ……?」


 朝だというのに目を開けてられない程まばゆい光に包まれ、目を閉じた後に開いてみれば……自分の腰の左辺りに重たい物が吊るされてるような気がして、まず手で探ってみる。


 固く、長い感触……そして細長い何かで有る事を感じとり目を開けてみれば、そこには1本の黒い刀がぶら下がっていた。


 しかも刀がぶら下がっているだけでなく、自分の服装まで先ほど来ていたTシャツとジーンズでは無く、羽織と袴に代わっている事に狼狽えていると――突然下から声がした。


「やーっと出てこれたぜ! テメェがオレ様の次の使い手か!?」


 第一声からやたらテンションの高いその声に、思わず首を傾げながら携帯を確認するも通話中になっておらず、頭に疑問符が浮かぶ。


「どこ見てんだ、オレ様はココだココ!」


 そう言って先ほどからカチャカチャなる方を――自分の腰の左、刀がある辺りを確認してみれば、勝手に刀が動いている様な気がするも、余りにもバカらしくてその考えを否定する。


「……気のせいか」


「気のせいじゃねぇよ!」


 一際大きくガシャンと刀が動いたのを見て、思わず大きなため息を吐きつつ、刀を鞘ごと腰から抜いた。


「なんで刀が勝手に喋ってんだよ」


「オマエ、そりゃオレ様がスゲェ刀だからに決まってんだろうが! てかオマエは日ノ本人なのに付喪神ってものを知らねぇのか!?」


「日ノ本って……というか付喪神だ?」


 カチャカチャうるさい刀を一旦机に置くと、付喪神について考えをめぐらす。


 確か付喪神と言えば、長い歴史を経た道具が妖怪になった様な物だった気がする。


唐笠お化けとかはその最たる例だろう。


他には提灯お化けとか……というか神って付いてるが、まともに神らしい神が全く思いつかない。


「それで、お前が俺のアビリティとやらなのか? ていうかこのアプリ全然説明が無くて分かんねぇんだが」


 そう目の前の刀に苦情を言うと、ハッと笑われる。


「そんな訳ねぇだろ、ちゃあんと懇切丁寧なチュートリアルがある筈だぜ? 現にオマエはそのチュートリアルをした結果、オレ様を呼び出したんだろ?」


 そんな事を言われるが、チュートリアルや解説なんてものはまるで無く、突然激痛に襲われた位だと説明する……傍から見たら刀相手に真面目に話してる俺は相当間抜けだな。


「はぁ? 激痛に襲われた上にabilityの項目が文字化けしてるだぁ? ちょい見せてみ」


 そう言われてスマホを掲げるが、そもそも刀の眼って何処なんだ?


「うおっ、マジだ! まぁ安心しろよ、オマエさんのabilityの名前は……」


 そう言った所で、先ほどまでガチャガチャと煩かった刀が突然押し黙る。


「おい、俺のabilityの名前は何なんだよ?」


「……スマン、オレも思い出せねぇや」


「……はぁ」


 予想通り使えない名無しの刀に思わず深いため息を吐くと、またガチャガチャ騒ぎ始める。


「いや、コレは何かのトラブルだっての。なんせこれまで一度もこんな事は無かったんだからな!」


 その言動に、思わず引っ掛かる物を感じる。


「お前、さっきからまるでこのアプリ? ゲーム? の事を知ってるかのように話してるが、以前も今回みたいに出てきた事あるのか?」


「ああ、当たり前よ。そもそも俺様は、世界最強の男の相棒だった刀だぜ?」


 そう自慢げに話されるが……思わず半眼で見てしまう。


 こんな刀の何処が世界最強だと言うのだろうか。


 現状このポンコツ刀の事は名前さえも分からないが、明らかに舞花やあの女の能力の方が優れている気がしてならない。


「まぁいいや、取り敢えずこのThird eyeについて知ってる事を洗いざらい喋ってくれ」


「オマエ、オレ様が最強だったってのを信じてねえな? まぁいいや、オレ様の最強伝説は後で聞かせるとして、右も左も分からないオマエさんに、オレ様が知ってる限りの事を教えてやるよ」


「はいはい、よろしくよろしく」


 そんな調子で、俺はポンコツ刀からThird eyeについての“いろは”を教えてもらう事になった。

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俺は手に入れた最弱の能力で、奪われた全てを取り戻して最強になる~異能力バトルに巻き込まれた俺が手に入れたのは、ただのしゃべる刀でした〜 猫又ノ猫助 @Toy0012

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