14 ……で。夕べはナニがあったんすか?
「……で。夕べはナニがあったんすか?」
にやにやと笑いながら、好奇心を隠さぬ様子でゲルヴィスが口を開いたのは、豪勢な朝食がそろそろ終わろうという頃だった。
おいしさに感動しつつ、柔らかな白パンを頬張っていたトリンティアは、思わず喉を詰まらせた。うぐぐ、と呻きながら胸を叩き、なんとか
ウォルフレッドの私室の広いテーブルで朝食をとっているのは、ウォルフレッドとトリンティア、セレウス、ゲルヴィスの四人だ。
「皇帝陛下と同じテーブルで食事をするなんて、恐れ多すぎて、食べ物が喉を通りません!」
と固辞したが、「別々に食事をするなど、時間の無駄だ。さっさと食え」と、一言のもとに却下された。
「せめて、もう少し肉をつけろ。喉を通らんのなら、ゲルヴィスに命じて、無理やり詰め込ませるぞ」
とも。
実際に食事をしてみれば、緊張よりもごちそうへの喜びが大きすぎて、いつも無心で食べてしまうのだが。
パンは水につけてふやかさずとも、手で簡単にちぎれるくらいふわふわの白パンだし、祭りの時に、骨に残ったひと欠片が口に入るかどうかというお肉が、なんと毎食出てくる。卵や魚、果物だってある。
皇帝の食卓とは、なんとすごいのだろうと、食事のたびに感動してばかりだ。
しかも、「嬢ちゃん、遠慮しねぇでもっとしっかり食え」と、ゲルヴィスが食べきれぬほどの料理を皿にのせてくれるので、お腹がはちきれるのではないかと、食事のたびに心配になるほどだ。
「何もない。鶏がらが、『冷酷皇帝』に怯えて泣いただけだ」
トリンティアが喉に詰まったパンと格闘している間に、ウォルフレッドがすげなく答える。
「にしては、扉のこっちにまで聞こえるほどの泣き声だったっすけどねぇ?」
熊みたいにいかつい顔に笑みを刻んで、ゲルヴィスがさらに突っ込む。
トリンティアの倍はありそうな体躯であるばかりか、左頬に古傷が走っているので、笑顔というより、熊が獲物を見つけて牙を
はんっ、とウォルフレッドが小馬鹿にしたように冷笑をひらめかせた。
「むしろ、『何か』あったとしたら、あの程度の泣き声で済んだと思うか?」
ちらりとトリンティアに視線を向けたゲルヴィスが、「あー……」と呟きながら、同情するように眉を下げる。
「ま、確かにそうっすね」
「しかし、『
「心配いらぬ」
ウォルフレッドが簡潔に即答する。
「『花の乙女』は手に入ったのだ。間に合わぬわけがなかろう?」
「……陛下がそうおっしゃるのでしたら、よろしいのですが……」
まだ何か言いたそうにしながらも、セレウスが引き下がる。
「で、鶏がら」
テーブルの上の
「は、はいっ」
自分が呼ばれるとは思っていなかったトリンティアは、ぴんと背筋を伸ばした。
何か
膝の上で両手を握りしめ、びくびくしながらウォルフレッドの言葉を待っていると。
「何か、望みのものはあるか?」
「……え?」
予想もしていなかった言葉に、思考が止まる。
「『花の乙女』の務めを果たしているのだ。
欲しいもの。
今まで、そんなことなど、考えたこともなかった。決して手に入らぬのに、考えるだけ無駄だから。
だが、皇帝の問いかけに答えぬわけにいかない。
一瞬でめまぐるしく駆け巡った思考が導き出した答えは。
「で、では……。陛下がお食べになった後の、林檎の芯をくださいませ……」
「……は?」
今度は、ウォルフレッドの動きが止まる。トリンティアはあわてふためいて謝った。
「も、申し訳ございませんっ!」
がたたっ、と椅子から下りて平伏しようとすると、「待て!」と手で制された。
「林檎の、芯? そんなもの、何に使う気だ?」
わけがわからぬと言いたげなウォルフレッドに、おずおずと説明する。
「そ、その、林檎はいい香りがしますから……。残りをいただけたら、干して、匂い袋の材料にできたら嬉しいと……。も、申し訳ございませんっ!
椅子を引き、テーブルの天板よりも深く、頭を下げる。
ぶはっと吹き出したゲルヴィスの大笑いに混じって振ってきたのは、ウォルフレッドの呆れ果てた吐息だった。
「林檎と言わず、梨でも
ウォルフレッドがずい、と籠を押しやる。
「で、他には?」
「他には、とは……?」
きょとんと聞き直すと、もう一度、嘆息が降ってきた。
「林檎の芯などが褒美になるわけがなかろう。そんなものを褒美にしては、わたしが笑い者になる。他にはないのか?」
「そ、その……」
褒美と言われた瞬間に、思い浮かんだことは、もうひとつある。
だが、口に出していいものか。
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