五十六話――手伝いながら頑張る
「あ、そうそう、シオン?」
「む?」
「さっき、お父様から連絡があってね、中央校の面談試験、明日に入れてもらえたから」
「……は?」
「うん。頑張って」
「違うよ、ヒュリア。あの「は?」はなにいきなり意味わかんないこと言っている? って感じのやつだよ。え、てか、ええ? 明日? よく入らせてもらえたね」
「ええ。あの授業の補習もあるし、できるだけ早く面談してもらった方がいいしね」
「けど、いくらなんでも唐突すぎるよ」
「でも、明日受けておいてもし受かったらそれで衣食住の住が確定して確保できるもの。早いに越したことないわ。その方が私たちの都合もいいし、ね?」
今ひとつ言葉を濁しているので不可解なことがあるも、シオンは元よりヒュリアたちの都合にあわせようと思っていたので文句はない。ひとつ頷いて了承した。
と、いうことでシオンは志望動機についてなにを書こうか、と思考に耽ろうとしたがそれよりも三人が自分たちの課題について質問してくるのが早かった。
シオンは別に困らない、ってか志望動機なんて上等なものすぐすぐ思いつかないので構わない。クィースの臼、ザラの鐘楼、ヒュリアのいなり寿司食玩について解説を述べる。
一応あの戦国で知識だけは誰かさん、城の説教魔殿に読まされた本やココリエになんだこれして知っていたので、教えるのに困らなかった。三人はほっとしている。
どうも、皆目見当もつかない道具やものばかりだったらしい。まあ、それを言われるとシオンも誰かさんたちに教わってなければ「知るか」と切ったところだ。
それからも三人は課題の消化に邁進し、シオンは時折東方系の問題に答を寄越しつつ、志望動機を考えてみる。ただ、絶好調で苦戦していらっしゃられるのだが……。
そしてそして、そうこうするうち、あっという間に時間がすぎ、寮内門限だからという理由でザラとヒュリアが引き揚げていったのでクィースとシオンも休むことに。
隣の寝室に移り、ふたり寝間着代わりの部屋着に着替えて布団にもぐり込んだ。
クィースが手を一振りして照明を消し、シオンにおやすみ~、ともごもご言って即、本当に一秒もかからず寝息が聞こえてきたのでシオンはがっくし呆れる。
いくらなんでも無防備すぎるだろう、と思ってしまって。別にシオンは恩に仇を返す気はない。ないが、少しは警戒しろ、だ。これがシオンなら警戒して一晩中眠るに眠れないところ。そういう状況下にいた。サイであったあの日々は。そうした日々だった。
「……他人の厚意と信にこれは不躾、か」
クィースたちの厚意と信頼に疑念を抱く。疑ってかかるのは不躾だな、と納得したことにしてシオンも休む。なんだかんだと短くも濃い一日で疲れていたので……。
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