五十五話――夕餉掃討!


 シオンの方は、といえば気にするな、と言われているので夕餉づくりに入ることにし、買い物を片づけついでに食材を整理整頓していく。それくらいクィースの冷蔵庫は混沌としていたのだ、これで歳頃の女子だというからある意味驚きだ。


 とにかく突っ込んであるだけ、という残念感なのでシオンは種類別に整理し、野菜は野菜専用の庫へ。肉はチルドに一応突っ込んであったがどれもこれも消費期限がヤバし。なので、今日使う分ほどだして残りを冷凍するように準備していく。


「……肉じゃがにでもするか、煮物」


 献立がつい口を衝く。食材を眺めながらもシオンの手は動き、材料を切ったり洗ったりしていく。きんぴらごぼうのごぼうをささがきにし、人参も細切りにしていく。


 並行作業で主食を炊飯器にお任せし、主菜に取り掛かる。シンプルに照り焼きにでもしよう。そう思って鶏のもも肉に塩胡椒をして皮目から焼きつつ、照り焼きのたれを作成。


 綺麗に洗って大きめの乱切りにしたジャガイモを皮ごと油を敷いた鍋にぶっ込み、人参と鶏の胸肉も一緒に炒めていく。あとを追わせるように玉葱をザクザク切って投入。


 砂糖、塩、醤油などで味をつけて落とし蓋をクッキングシートでつくって乗せ、煮込む。


 煮込んでいる間に他のものをする。夏日だった為かさっぱりいただけるものがいるかな? と思ったのでなますをつくるのに大根と人参を千切りにし、胡麻をすって酢と砂糖をあわせたところに刻んだ野菜を投入。さっと混ぜて完成である。


 そうこうする間に肉がいい具合に焼けてきたのでひっくり返してしっかり火を通す。


 箸で押さえてみて弾力が返ってきたのでたれをまわし入れてじゅわーっと一気に沸騰させる。甘辛い、香ばしいにおいが室内に充満したせいか食卓の方から本日三度目となる盛大な腹の蟲が盛大に呻く声が聞こえてくる。が、シオンは無視しておいた。


 気にしたからといって食事の支度が捗るわけでもなし。早く終わるでもなし。あとは汁物でも、と思い、エノキダケと豆腐で簡単な味噌汁をつくる。これも買い物が重くなった原因だ。味噌だの醤だのはかーなーりー重たい。まあ、ザラも適度に役立ってくれた。


 適度に、の辺りがまたひどい。男の子の矜持としては大打撃だ。大きく貢献してくれたとかならまだしもなぜに適度止まり? とまあそんなこんなで。けれど、シオンにとっては適度であることに変わりない。見かけ倒しか、とか本気で思ったくらいだ。


 それを口にしないだけ偉い。いつものシオンだったらなにも考えずに言っていただろうことは想像に易い。なーんて無駄思考している間に炊飯器が調理完了を告げてきた。


「食事にする。片せ」


「あ、はーい」


 よいコの返事でクィースが応え、食卓の上に広げられた教科書や参考書、筆記具に書き留める為の紙諸々が片づけられていく。それを耳で聞きながらシオンは鶏の照り焼きを一口大に切っていく。焼き立てを切りわけて銘々皿に千切りキャベツとあわせて盛る。


 シオンがご飯をよそい、味噌汁を椀がなかったのでスープボウルに盛りつけていると台所に給仕をしにヒュリアがやってきたのでお盆に乗せて渡す。ヒュリアは見たことのない料理に少々頭の螺子が飛びかけたが堪えて運んでいく。シオンも運ぶ。


 ザラとクィースがそれぞれの課題を別の机に移動させている間に給仕完了。食卓は勉強の山から一変。卓が唸るほどの大量料理が乗せられた。どれもこれも東方諸国家では定番の品ばかりだ。が、ヒュリアたちには珍しいらしく写真を撮られている。


「いい加減で切りあげろ。冷めるぞ」


「うあ、それはもったいないっ」


 シオンからの注意にクィースは着席。ザラとヒュリアも座ったのでシオンは自分だけ箸を取って食事をはじめる。汁を一口すすり、炊き立てご飯を一口。大皿に盛ったおかずを適当量自分の取り皿にもらって食べはじめる。いや、しかしすごい量である。


 零れ落ちんばかりの肉じゃがときんぴらごぼうの山。酢の物は小鉢に個別でつけてあるが、肉も結構量配られていて、特にザラの皿には三人前くらい盛ってある。


 だが、その程度物の数ではないとばかりザラは搔き込んでいく。もちろん、味わいながら。肉汁溢れる照り焼きは甘辛いたれが食欲を増進させるし、途中はさむ酢の物や味噌汁も慣れないながらに食が進む不思議な味わい。ザラは早速飯をおかわりする。


 炊飯器の限界量たる五合の米。足りるかどうか心配していたシオンだが、ちょっと危ないかもしれない。ザラのおかわりはそれくらい早かった。食事開始二分で、とか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る