二章――面談
五十七話――泣いているの、どうして?
泣いている。……誰かが、泣いている。
誰の為? なにの為? どうして、泣いているのでしょうか。ねえ、誰か……?
ねえ、あなたは誰? どうして泣いているの? ねえ、どうして……どうして、血まみれなの? 誰の血をかぶったというのですか、それともかぶらされたのか?
赦せない。そう、思うと同時にそれが私の血でそのひとに血をかぶせたのは私だと気づいて、堪らない気持ちになった。彼を汚してしまったことを悔いたのです。
それはおかしなことでしょうか? 私自身はまったくおかしいと感じていないのだけれども。ねえ、間違っているのは私? それとも誰でもない誰か? 誰、だろう……?
悲しく悔しく苦しい。どうしてこんなことになってしまったの、と悔やんでも時間は元に戻りはしない。そして、彼らの殺意も覆しようがないのはそうだった。
覆せない。だってそう。彼らは王直々の命を受けて赴いた。私は私の判断で、我儘で、勝手で出陣を決めた。マナの顔が悲愴に歪んでいたのが今も脳裏にこびりついている。
でも、どうしてもそうするよりほかになかった。なかったのよ。どうしようもなくてどうすることもできなくてだったらと腹をくくった。彼らと対峙する道を選んだ。
マナも知っていたから、私の覚悟を理解して止めなかった。無理に止めようとしなかった。その結果、自らの心臓を刻まれる痛みを覚えてしまった。……そんなもの、感じなくてもいいのに。私などの為に心痛めなくてもいいのに。ねえ、そうなんだよ?
苦しまないで。悲しまないで。辛く思う必要もない。だって私は悪魔なんだもの。こんなふうさらし者にされて激痛と辱めを受けるのはある意味当然の結末なのです。
だから、マナ。戦国で私の姉のように在ったひと。どうか、その涙を止めて笑って。
相応しい罰だと笑い飛ばしてください。いっそのことそうされた方が、気楽だから。
あなたの
そんな価値、私にはないのだから。わかっているからより私は辛くなる。でも、どんなに辛くてもそれを表にだしはしない。だって、そんなことしたらより多くの顔が悲哀に染まるのは目に見えている。あのひとの涙だけで充分に察することができている。
どんなに願っても、頼んでも彼の涙は流れていく。それが堪らなく苦しいのに、そうと言うこともできない。余計に悲しませる、とわかっているから。だから、言えない。
……ああ、どうして。なのに、どうして?
なぜ私は悲しまれることを嬉しく思っているのでしょうか? なんて醜悪な、なんて汚らわしい思考。許せないし許し難い。けど、誰もそう、私の醜悪で汚らわしい様を咎めないばかりかそうあって当然、というような思考すら透けて見える。……イミフ。
ああ、終わるのか。朝が来て、新しい日がはじまるのか。はじまらなくていいのに、はじまれば終わってしまうのだから。もう永遠に終わった私に終末は、惨くある、から。
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