五十四話――夕餉のこしらえ


「まあ、クーがウザいのかどうかとか、おドジの神祖かはどうでもいいとして、さ」


「ちょ、コニス!? どうでもいくない!」


「とにかくありがとう。シオンさん、見た目近寄り難い感じするけどいいひとだね」


「……いいひとかどうかは保留しておけ。あと、敬称は要らぬ。呼び捨てでいい」


「無視ぃ!?」


 ええ。無視ですとも。それ以外になにがあろうか。ってかあるわけがないのにわざわざ確認するのはどういう被虐だ。まあ、クィースなのでこっちはこっちで天然のままに被虐の道を進んでいきそう。それもこれもドジ神様の思し召しというか運命ということで。


 話しているふたりに無視されているクィースを背後で憐れむ幼馴染ふたりは苦笑している。シオンの無自覚な天然嗜虐にも。クィースの宿命的被虐にも。もう笑うしかない。


「掲示板になにがあるのか」


「ああ、それは三人に訊いて。僕、終わったから早く休んで悪夢にさよならしたいし」


「ふむ。気が向いたらな」


「あっはは、シオンって面白いね。じゃ、ヒュリア、僕、今日は学食で済ませるから」


「了解よ」


 簡単に返してヒュリアはコニスに手を振る。コニスは手を振り返して寮の玄関ホールから階段がある方へ向かい、そのまま階段をあがっていく音が聞こえてきてシオンは首を傾げる。そもそも「がくしょく」とはいかようなるものか。が最大疑問。


 これにはヒュリアが答えてくれる。


「学生食堂を省略して学食っていうのよ。主に寮母さんと専門の栄養士がご飯つくってくれるのだけど。こっちには東方諸国家の料理をしてくれるひとがいるからね。うふふ」


「なにか」


「いいえ。楽しみだなぁって。だけど、掲示板、掲示板ってもしかしたら……」


「思い当たりでも?」


「ん。んー、ちょっとね。ヤな予感だわ」


 ヤな予感だと言うヒュリアは若干青い顔をしている。シオンが振り返ると他のふたりも微妙に青ざめているので敢えて触れないでおき、自動昇降機エレベーターに向かう。シオンは別に階段で六階まであがってもよかったがそれだとザラがくたばる。


 なので、文明の機器を使用する道を選択し、三人を待つ。三人はシオンの方へ、は来ず寮の目立つ場所にあるコルクボードのところにいき、なにかを確認。三人揃ってざぁっと青ざめて蒼白な顔になり、シオンの方へよろよろ歩いてくる。なんだ?


 ただまあ、なんだ? と思ってもシオンは一応の気遣いから訊かないでおいた。三人、今口を開いたらいろんな混沌が反吐になってでてきそうだったのでひとまず遠慮。


 と、いうわけでやってきた自動昇降機エレベーターに四人乗り込み、六階へ。


 移動中に会話はなく、微妙に重苦しい空気がただよう。が、それでもシオンはなにも訊いてこない。見た目よりは優しいらしく三人が言いたくなるまで訊かないでいてくれるようだというのを感じて三人、シオンに感謝である。そのまま四人で二号室に入る。


 クィースの部屋に入ると自動で冷房がひとを感知してついた。涼しい風が肌を撫でる。シオンの体感で二十六度前後。適度にエコロジーな施設設備だ。そして、いまさらだが。


「私はここにいていいのか? いかに寮長がすべて覚えていなくともさすがに……」


「大丈夫よ。一時滞在許可状を教頭先生が手配してもう寮に届いている筈だから。ところでなにをつくってくれるの? 根菜類を多く買ったけど、なににするの? ポトフ?」


「妥当なところできんぴらと煮物、肉が結構あったので消費するのに和風の味つけで主菜をつくる予定だ。だから、そんなに寄ってくるな。鬱陶しい変態美女」


「う、うぅーん、シオンに言われるとちょっともやっとするわね。美女だとかって」


「?」


「ああ、ううん。気にしないで。じゃあ、できあがるまで私たちは勉強しているから」


 言うだけ言ってヒュリアは「勉強なんてするの? うえー」しているふたりの友人の背を押して食卓で文房具やノートを広げて課題に取り組みはじめた。なので、他ふたりも渋々勉強をはじめるが結構頻繁にヒュリアに助言を求める声が聞こえてくる。


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